キー局決算に見る放送業界「史上最悪の危機」 なぜフジテレビだけ放送収入大幅ダウンなのか

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さて問題のフジテレビだ。この局だけ「言葉」を持っていない。そもそも、HD体制の上場企業なのに中期経営計画を示していないのが驚きだ。はっきり言うが、フジテレビだけ「経営」が見えてこない。これまでの放送業界はうまくいっていたし、横並びでやってきたので多少の順位差はあっても「経営」は必要なかったかもしれない。

だがどう見てもゆくゆくテレビのメディアパワーを失うのが目に見えているのに、フジテレビだけ今後どうするかの議論が行われた形跡がない。視聴率でヒットを飛ばせばいいとしか考えてないように見える。'80年代のやり方しか知らない限られた人々の間でトップが次々交替し、誰も責任を問われない。それで済んでいるのは、フジテレビは事実上ガバナンスが効いておらず上皇様のような人物がいまだに権力を保っているからだ。放送業界ではNHKのガバナンスが問題にされがちだが、民放のガバナンスのほうこそ大問題だと思う。

これはローカル局も同じで、キー局と新聞社や地元資本の間で株を持ち合いでやってきて、経営をわかっていない経営者が多い。みなさんどうするのだろうと心配になる。

そんなフジテレビだが、ドラマ「silent」がネットで話題になり、記録を破る配信視聴を獲得している。これは、放送業界全体にとっての大きな光明だ。配信に大きく舵を切るべきだと、たった1つのコンテンツが示してくれた。こういうヒットを出すのは、フジテレビの潜在力の高さの証明だ。

やはりテレビはオワコンなのか

これをスタート地点にどう動くのか、注目したい。ただ、うかうかしていると「silent」に学んだ他局が自分たちなりの動きをするだけかもしれない。フジテレビも真剣な議論の末に自分たちの「言葉」を見つけてもらいたいものだ。

実際、この決算から配信による広告収入を資料に入れて示す局が多い。テレビCMに並ぶような存在に育てていく覚悟がようやく示された感がある。その数字をどう伸ばすか、個別の努力と力を合わせての努力が必要だ。フジテレビも「これからは配信だ!」とはっきり言葉で宣言するときだと思う。

最後に書き添えると、こういう記事には「そらみたことか、テレビはオワコンでネットに代わられるのだ」の類いの意見が出やすい。それは今や違う。TwitterやFacebookも大量の人切りを行ったようにGAFAと呼ばれる巨大ITも大きく揺れている。Netflixが広告付きプランを始めたのも私が思うに苦肉の策。黒船がテレビ局を崩壊させるどころか、新旧メディアが一斉にガタついているのだ。テレビ局は今後身をすり減らしながらも配信に軸足を置いたパラダイムシフトを図るだろうし、それができなければ消えゆくのみだ。その行先を、見守っていきたい。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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