――大学生が作ったゲームを実際に小学生に使ってもらうという実証研究の中身について教えてください。
小学校5年生1クラス40名を対象に、授業外の時間を1時間使って行いました。多目的室という比較的広い部屋で、ブースを設けて学生たちが作ったアプリ全てを小学生に体験してもらいました。それぞれのブースで机の上にiPadやWindowsタブレットを置いて。子どもたちの人数分の端末は用意してありました。各ブースではアプリを作った学生たちがいて、アンケート用紙も作って小学生がアプリをやったらアンケートを書くという機会も設け、できるだけ全部のアプリをやってみてねと話しました。
――子どもたちの様子はいかがでしたか?
ものすごく喜んでいました。単純に学校でゲームが出来て楽しいという気持ちもあったと思いますが、生徒の考えたアプリの出来栄えがよかったことも大きかったと思います。ただ、だんだんゲームに入り込んでいく中で物足りなく感じたり、「スムーズに動かない!」とか「これで終わりなの、つまらない!」といった声をあげたりした子もいました。つまり、子どもたちはアプリを通じてすぐゲームで学ぶ、という世界に入っていって、もっと楽しみたいという気持ちになるんですよね。
――小学校の先生の感想は?
校長、副校長も来てくれたのですが、教員たちの感想は一様に、「子どもたちはこんなにすぐ、学生たちが作ったゲームを楽しむんだ」というものでした。また、教員たちからはアイデアソン、ハッカソンの段階から参加してみたい、という声ももらったので、来年度はそのように工夫していきたいと考えています。
教育学部でアプリを作ることは他の大学でもやっているかもしれませんが、本格的に企業と連携して、実際に教育現場でもアプリを使ってみる、ということまでしているところは他にはないのではないでしょうか。そういう意味では、非常に珍しい事例だと思います。
ゲームを用いるのは、学習への動機づけのため
――そもそも教育とゲームをなぜ組み合わせようと考えたのですか?
その組み合わせは、私のオリジナルの考えではないんです。20年くらい前からある考え方で、情報技術が進んできたということが大きいですね。一方で、成熟社会になってきて、学習への動機づけが非常に難しくなっている現状があります。
貧しい社会が成長していく過程であれば、学ぶことによって学歴をつけ、学歴をつけることによって良い職に就け、その結果豊かな生活ができるという分かりやすい動機がありました。かつての日本も、そういう分かり易い動機づけで、受験戦争を勝ち抜くために勉強するということが続いてきました。ところが、今は社会が成熟して経済が以前ほど成長しなくなり、受験についても、少子化によって競争が減っています。大学を選ばなければ、ほぼ全員入学できる時代です。そうなると、将来のためにとか、受験で受かるために勉強するという動機づけが非常に弱いんです。
「学びからの逃走」という議論もありますが、子どもたちがだんだん学ばなくなってきています。最近では二極化と言われています。つまり、一部の子どもだけがより良い学歴を目指して頑張り、そうではない子どもは全然勉強しない。中学生で学校外の勉強時間が0分という子どもも結構います。このような状況では、学ぶための動機づけをどうするかということがとても重要になってきます。
しかも、当然ですが大学に入れば学ぶことが終わりというわけではなく、入ってからがスタートという認識が広がってきました。受験に合格しただけでは、社会では通用しない。有名大学を出ても就職できない人が沢山いますね。そうなると、そもそも能力を高めなければということになるので、結局、教育の方向としては受け身で詰め込み型の教育を受けるのではなくて、自ら主体的に問題を解決すること、しかも個人で動くのではなくて協働的に、他の人と連携、協力して学ぶということが求められてきています。
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