なぜ米国には「中絶を認めない州」があるのか キリスト教の威力を池上彰氏が徹底解説

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地方都市には保守的な人が多く、都市部にはリベラルな人が多い。多くの国で、こうした傾向はみられます。アメリカも例外ではなく、ニューヨークなど東海岸とカリフォルニアなど西海岸ではリベラルな民主党支持者が多数住んでいますが、中西部や南部に行くと、共和党を支持する保守的な人たちが多く住んでいます。とりわけこの地域には敬けんなキリスト教徒が多く、「バイブルベルト」(聖書地帯)と呼ばれます。

こうした地域には「メガチャーチ」と呼ばれる巨大な教会があります。教会内に大規模なホールがあります。全米に1300以上あると言われ、日曜日には数万人の信者が集まります。カリスマ牧師が歓声の中で迎えられ、礼拝が行われます。この様子はケーブルテレビで中継されます。

牧師の多くは福音派で、家族の大切さや同性婚反対、妊娠中絶反対、国家への忠誠心などを説くのです。

また、彼らの多くがプロテスタント、ジョン・カルヴァンの考え方を継承しているので、勤勉さを重視します。神から認められていれば勤勉に働くことができ、裕福になれる。低所得者は神から救済されない存在であり、勤勉でないから貧しいのだ。こう考えてしまうため、自己責任論になり、低所得者のための社会保障強化に反対するのです。

オバマ前大統領が任期中に創設に力を入れた「オバマ・ケア」(誰でも医療保険に入れるようにした制度)に反対する人が共和党の保守派に多いのも、こうした自己責任論にもとづくものです。

最高裁判決めぐり二分する全米

2022年6月24日、アメリカの連邦最高裁判所は、「中絶は憲法で認められた女性の権利」とした49年前の判断を覆す判決を下しました。これには中絶に反対する保守派は大歓迎する一方、中絶は女性の権利だと主張するリベラル派は猛反発。全米各地で、それぞれの立場の人たちが集会を開きました。

アメリカは、人工妊娠中絶の是非をめぐって国論が二分する国家なのです。実はここにも宗教の考え方が背景となっています。

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