なぜ米国には「中絶を認めない州」があるのか キリスト教の威力を池上彰氏が徹底解説
大きな影響力を持つ「福音派」
最近のアメリカでは、この福音派が大きな影響力を持つようになってきました。保守的な白人に多いプロテスタントの福音派は、中南米や中東からの移民の増大で、自らが少数派に転落しつつあることに危機感を募らせていると言われます。
中南米からのヒスパニック(ラティーノ)はカトリック教徒ですし、中東からの移民はイスラム教徒です。「アメリカは白人のプロテスタントが建国した」という思いが強い人たちは、自分たちの「あるべき」姿を政治において維持しようとしているのです。
この福音派とは、キリスト教のプロテスタントを信仰の姿勢によって比較分類する際に用いられる用語です。福音派は、『聖書』とは「神の霊感」によって書かれたもので、その内容は一字一句すべて誤りのない神の言葉であると信じている人たちです。アメリカの福音派は、プロテスタントの長老派やバプテスト派、メソジスト派など、ほぼすべての宗派に存在しています。
この福音派の力を最初に見せつけたのは、1980年の選挙で共和党のロナルド・レーガン大統領を当選させたことです。さらに2000年の選挙では共和党のジョージ・W・ブッシュ大統領を押し上げました。
レーガン大統領の場合は、対抗馬が2期目を目指す民主党のジミー・カーター大統領でしたが、失政が響いて支持率が低迷していましたから難なく当選を果たしました。
ブッシュ大統領の場合は、選挙戦中から、その能力にクエスチョンマークがつくこともありましたが、本人が福音派であることを強調。福音派の熱心な支持で選挙に勝利しました。その結果、「テロとの戦い」を「十字軍の戦いだ」などと失言してしまうのです。
その反対に2008年の大統領選挙で共和党から出馬したジョン・マケイン候補は、極端な保守派ではなく、福音派からの支持を得ることができずに、民主党のオバマ候補に敗北しました。
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