東日本大震災の記念施設で現代美術が果たす役割 南三陸町に仏美術家ボルタンスキーの作品

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「南三陸311メモリアル」の展示の中心は、被災を経験した89人の町民のインタビューを映像、音声、テキストなどで視聴できるようにした「展示ギャラリー」と、映像によって視聴者に問いを発して震災に遭った際の行動などについて考えてもらう「ラーニングシアター」だ。

展示ギャラリーは、悲惨な経験のことは忘れたいという人も多くいる中で、町民がそれぞれ個人的にどんな経験をしたかを、被災者自らの語りで収録した貴重な記録となっている。

「津波が来た時、はたしてあなたは数十秒で逃げられる3階にのぼるか。それとも、10分はかかるであろう丘の上に逃げるか」。ラーニングシアターで上映された映像の中では、こんな問いかけがあった。視聴者は短時間で判断を迫られる。はたして正解はあるのか。さまざまなことを考えさせてくれるプログラムになっていた。

「ラーニングシアター」より(撮影:小川敦生)

その二つの部屋の間にある「アートゾーン」に設置されているのが、ボルタンスキーの「MEMORIAL」だ。作品の基本部分をなすのは、1050個ほどの直方体のビスケット缶である。缶は同町内の板金工場で一つ一つ手作りし、潮風で風化させたものという。風化した缶の山は経年劣化した建築物の様相を呈し、天井から吊るされた電球に照らされて、鑑賞者の心をそれぞれの想像の世界へといざなう。

「アートゾーン」に設置されたクリスチャン・ボルタンスキーの「MEMORIAL」(撮影:小川敦生)

施設にボルタンスキーの作品を入れることに、同町の佐藤仁町長は積極的だった。震災の前年から同町のアートプロジェクトである「きりこプロジェクト」にかかわってきたアート・イニシアティヴ エンヴィジ代表の吉川由美氏が、震災後、「記憶」をテーマにした例としてボルタンスキーという作家がいることを伝えた。佐藤町長は香川県の豊島(てしま)にある「心臓音のアーカイブ」というボルタンスキーの作品を実際に訪ね、感銘を受けて、施設への作品導入を決めるにいたったという。

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