ドラマ「silent」第5話で見えた圧倒的支持の理由 物語を徹底解説、今からでも間に合う話題作の見方

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続くシーンは湊斗の部屋。紬は自分の荷物を整理しながら湊斗に話しかけますが、呼び方が恋人の「紬」ではなく友達の「青羽」に変わっていました。紬が動揺を隠しつつ、「どっちから告白して付き合いはじめたか」と尋ねたことで会話はハンバーグを食べに行ったエピソードに発展。ただ、互いに目を合わせることなく語り続け、特に湊斗は紬に背を向けていました。

湊斗は「自分のこと好きな人、好きになるとさ、片想いできないよね」「もったいないよね、楽しいのに、片想い。まあ青羽にはわからないか」と突き放すように話すと、紬は湊斗の肩をポンポンとたたいて、2人は初めて目が合います。紬は「今、(湊斗に)片想い、ほら(自分を指さす)」「(楽しい?と聞かれて)全然楽しくない。『絶望』って感じ。目が合っても絶望」と話しました。

このような詩的であり、哲学的にも見えるセリフは、脚本を担う生方美久さんが憧れる坂元裕二さんを彷彿させるもので、重要な見どころの1つ。近年はバズることを意識しすぎて、いわゆる「ドン」「ズン」などの胸キュン狙いの脚本が定番化していただけに、「セリフで魅せる」という当作の強みは際立っています。

「モテるヒロイン」に共感できる理由

続くシーンは手話教室で、紬は思わず講師・春尾正輝(風間俊介)に「片想い」という手話を尋ねてしまいました。春尾の「本当に好きなんですね。湊斗くん、まるで『青羽さんは自分のこと好きじゃない』みたいな、そんな言い方するから。無意識に名前出ちゃうくらい、本当に好きなんですね」、紬の「(想とは違って)普通に声で話せるんですけどね、湊斗は……伝わらないものですね」というやり取りからも、「セリフで魅せる」当作の魅力が詰まっていました。

さらに、紬の親友・真子が湊斗をファミレスに呼び出して会話を交わすシーンでは、彼女の口から「いかに紬が湊斗のことを好きだったか」を語るシーンがありました。春尾と真子という第三者の口から、「いかに紬が湊斗のことを好きだったか」を語ってもらうことで、視聴者は紬の純粋でいちずな人柄を感じたのではないでしょうか。

三角関係を描く恋愛ドラマでは、「2人の男性から愛されるにふさわしいヒロインでなければ視聴者は感情移入しづらく、恋の応援ができない」「『何でこのヒロインはこんなにモテるの?どこがいいんだろう』と思われると厳しい」ところがあるもの。しかし、ヒロインの心情を丁寧に描いた当作はその心配がないのです。

次ページ短いシーンも丁寧に描いている
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