ドラマ「silent」第5話で見えた圧倒的支持の理由 物語を徹底解説、今からでも間に合う話題作の見方

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ここから2日放送の第5話を具体的に解説していきましょう。

最初のシーンは、紬たちの恩師・古賀良彦(山崎樹範)が経営するフットサル場の外。紬と湊斗が洗濯を終えたビブス(ゼッケン)を物干しロープにかけています。前回の第4話では、湊斗の誘いで想を同級生が集まるフットサルに誘い、そこで湊斗は紬に別れを切り出し、想にもその旨を伝えていました。

ビブスをハンガーにかけながら会話を交わす紬と湊斗。カメラは後ろから撮っていて、2人の姿は背中しか見えません。しかもその大半はカメラを止めないワンカット撮影(長回し)でした。視聴者は「2人はどんな気持ちで話しているのだろう……」と思いをはせられる演出であり、当作が「自分だったらどう思うかな」と自分事のように見られる理由の1つです。

湊斗が「付き合い始めたのも、今思えば何か弱みにつけこんだ感じだったし、紬も多分、『とりあえず優しくしてくれれば誰でもいい』みたいなのあったと思うし」「この3年ずっと考えてた。今、紬が想と再会したらって。ずっと考えてたし、紬も考えてたと思うし、正直ずっと不安だった」「別れよ。もう無理しなくていいよ。俺がもう無理」とあらためて別れを切り出すと、悔しそうな顔で黙ったままビブスで湊斗をたたく紬。そこにセリフはなく、「ザッ」という音だけでした。

次のシーンに移っても「セリフなし」は続行。ショックで家に帰れない紬のもとに親友の横井真子(藤間爽子)が駆け寄り、黙って寄り添う様子が映し出されました。脚本家や演出家は紬の気持ちをセリフとして川口春奈さんに言わせるのではなく、視聴者に想像してもらおうとしているのです。

「ながら見する人が増えた」「ザッピングを避けるため」などの理由から、わかりやすさ重視で説明セリフの多いドラマが目立つ中、「silent」の作り手たちは「きっと想像しながら見てくれる」と視聴者を信頼している様子がわかるのではないでしょうか。この点だけを取っても当作は希少価値の高いドラマなのです。

「キュン」狙いはせずセリフ重視

次のシーンは翌朝。1人寂しく朝食を食べる紬は湊斗に電話をかけ、「荷物を回収しに行っていい?」と約束を交わしました。多くの人が経験したであろう、恋人と別れた直後の孤独感。それを背景に誰もいない室内をしっかり見せて撮ることで、「荷物を回収して本当に関係が切れたら嫌」「それでも顔が見たいと思ってしまう」などの複雑な心境を表していました。

そのとき想は恩師の古賀に、紬と湊斗のことを相談していました。古賀は悩む想に、「自分だって同じ女の子振ってるじゃん。もっと残酷な感じで。それなのに納得いかないってのは、何かちょっとダサいわ」「戸川と青羽にも2人なりの考えとか関係性とかあって……この8年とか、まったく見ていなかった佐倉にわかるわけないと思うよ」と冷静かつ温かい言葉で励ましました。ここではスマホを使った会話で、「しゃべる古賀、文字を打つ想」という静と動のコントラストを生かして、大切な人を思う2人の優しさが表現されていたのです。

次ページ誌的であり、哲学的にも見える
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