このように医師の不足が大問題である以上、外国人医師の活用は重要な課題だ。しかし、前記の日本医師会の態度からも明らかなように、その実現は絶望的に難しい。
実際、日本の病院で外国人の医師を見掛けることはほとんどない。ちなみにアメリカの病院では、看護師はほとんどがヒスパニックである。医師も外国人が多い。スタンフォード大学医学部は全米トップクラスの医学部であるが、その付属病院でもそうした状況だ(なお、ここで先進医療による治療を受けるために渡米する日本人患者もいる。私が住んでいたアパートは付属病院のすぐ近くだったので、そうした人々が部屋を借りて通院していた)。
また、アメリカの病院で撮影したCT画像をイスラエルの医師が診断するなどのオンライン・アウトソーシングも行われている。医療でもITを活用したグローバリゼーションが進んでいるのだ。ここでも日本は世界の動向から取り残されている。
日本で「医療国際化」と言われる場合に強調されるのは、新興国からの患者を日本で診断する「メディカルツーリズム」だ。それを否定しようとは思わないが、ここには供給者の論理はあっても、患者の視点は少しも感じられない。
もちろん、「供給者の論理」はさまざまな場で主張される。労働組合は外国人労働者の受け入れに反対だろうし、経営者は外資の日本進出に反対する。グローバリゼーションの進展によって不利益を蒙る社会勢力から反対が出るのは、どんな場合でも不可避である。しかも資格や免許が必要な職業では、反対は強力で実効性のあるものとなる。したがって、人材開国は極めて困難だ。
問題は、人材開国によって利益を受ける社会集団が、供給者側の論理に取り込まれてしまっていることだ。医療・介護分野の人材国際化はその典型例と言えるだろう。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年3月19日号)
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