14時間労働とパワハラ、心が壊れてしまった過程 1日30回の電話やトイレの回数監視まで…

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元々短期間で使い捨てる前提で雇っているんだと思います。採用基準がほとんどないと言っていいものでしたから。学歴不問、年齢不問、スキルやこれまでの経歴もまったく気にもとめていない様子でした。

――他の神社で同業の知り合いはいましたか?

まったくいませんでした。それもあって、自分の職場でやられていることが業界の常識なんだと思わされて、確認ができない状況でした。山奥なので外部からの情報が遮断されていたし、社員寮で生活していたので住居も握られていて、何重にも条件が重なって閉鎖的な環境に拍車をかけていたと思います。

息抜きらしい息抜きができなかったのもつらかったです。遊べる場所へ出かけるのも一苦労で。朝6時に家を出て、だいたい3時間かけて都市部へ行くんですが、帰りもそれだけ時間がかかるので、遊べる時間は実際2時間くらい。それに、休日もいつ神社から電話がかかってくるかわからないので、怯えで気が抜けませんでした。

――お話を伺っていると、同じような問題を抱えた地方の中小企業はこの国に数多くあるように思います。転職を試みたことはなかったのでしょうか。

なかったです。発想がありませんでした。

働きはじめてから2年ほど経ったとき、やっとの思いで確保した有給休暇で久しぶりに友達と旅行へ行ったんですが、その帰り、1人になった瞬間から家に着くまでずっと涙が止まらなくなったんです。でも、それでも「辞めたい」とは思っていませんでした。マインドコントロールのような状態に陥っていたんだと思います。

離職を「許可してもらう」という誤った認識

今考えてみたら馬鹿みたいな話なんですけど、上司から「辞めるなら2年前に言わないと辞めさせない」と言われていました。実際、先輩で辞めさせてもらえていない人がいたのを見てそういうものなんだと信じ込んでいました。

――辞めさせて"もらう"という言葉遣いは労働に関する会話の中で日常的に使われるものですが、そもそも使用者側から「許可してもらう」ようなものではない、ということが社会に十分浸透していないのかもしれません。

本当にどうかしてますよね。当時は休みがなかったから就職活動もまともにできなかったですし、辺鄙な土地で、寮で暮らしていたのもあって引っ越しが容易にできないこともあって、この環境から逃れようという気力が削がれていたというのが大きいと思います。

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