日本人は今の貿易赤字がいかに深刻かを知らない 競争力低下で経常収支が恒常的に赤字となる危険

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また、鉱物性燃料輸入額が2000億ドルを超えたことも、過去に何度もある。そこで、鉱物性燃料収支赤字額を2000億ドルとすると、貿易赤字は1500億ドル(=2000億-500億ドル)の赤字となる。1ドル=150円であれば、これは22.5兆円だ

ところで、日本では、サービス収支が360億ドル程度の赤字、第1次所得収支が年間1820億ドル程度の黒字だ。だから、仮に貿易収支が1500億ドルの赤字だと、経常収支が40億ドルの赤字になる。

鉱物性燃料収支赤字が2000億ドルを超えれば、赤字はもっと拡大する。

経常収支が赤字になれば、その分を外国からの借り入れによって埋め合わせる必要がある。すると、対外純資産が減り、所得収支も減ってしまう。悪循環が始まり、日本経済が深刻な問題に陥る危険がある。

これは、そう簡単になることではないが、資源価格の動向によっては、十分に起こりうることだ。

アメリカは経常赤字を続けられるが、日本はできない

アメリカは経常収支の赤字を続けている。しかし、それによって問題が生じることはない。

それは、ドルが基軸通貨だからだと言われることがあるが、そうではない。因果関係は逆だ。

アメリカ経済が強いからだ。アメリカに投資をすれば、将来、大きな収益とともに投資資金を回収できると期待できる。このため、経常収支が赤字でも、外国から投資がなされるのである。

だから、赤字を続けられる。

ドルが基軸通貨であり続けられるのは、このようにアメリカ経済が強いからだ。

いまの日本経済は、残念ながら、このような信頼を世界から獲得していない。日本経済の体質強化は、焦眉の課題だ。

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野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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