
市場原理を働かせたイギリスとは対照的だ(写真:Luce/PIXTA)
総合経済対策で巨額の国債発行が行われることを予想して、国債市場で取引が成立しない事態が生じた。日本の政治は、物価高騰に対して本来なすべきことをせず、問題の隠蔽だけを考えている。金利というシグナルを殺したため、不合理な政策がまかり通るのだ。
昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第82回。
巨額の総合経済対策で、大量の国債増発
10月の国債市場で異常な状況が発生した。
10月11日、10年国債の業者間取引が、10月6日、10月7日に続いて成立しなかったのだ。3営業日連続で売買不成立となるのは、初めてのことだ。最近も、不成立となる日が続いている。
なぜこんなことになったのか?
その原因は、総合経済対策をめぐる政治の動きにある。
10月3日、岸田文雄首相は、所信表明演説で、電気料金の負担軽減など物価高対策を中心にした経済政策を打ち出した。
その規模が相当のものになることは、9月から自民党内で論議されていた。
自民党の萩生田光一政調会長は、9月の時点で、総合経済対策について、「昨年の補正予算が30兆円を超える規模。それを上回る規模での補正予算案の編成が必要」との認識を示していた。自民党の世耕弘成参院幹事長も、20日の記者会見で、「30兆円が発射台」と発言した。
こうした動きが、冒頭の異常事態を起こしたと考えられる(そのメカニズムは、以下に説明する)。
なお、政府は10月28日、総合経済対策を閣議決定した。財源の裏付けとなる2022年度第2次補正予算の規模を、一般会計の総額で29.1兆円程度とする。
国債市場の異常と総合経済対策とは、密接に結びついている。それは、日本経済が由々しき状態に陥っていることを示している。
その理由を以下に説明しよう。
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