日本の異常すぎる金利抑制策に募る「最大の疑念」 国債市場が機能不全なのに転換しないのは不健全

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しかし、日本国民は、これで騙されるほど愚かではない。

イギリスでは、金利高騰が不合理な政策を撤回させた

イギリスのトラス政権は、9月23日に、電気・ガス料金を凍結する政策を打ち出した。

それだけでなく、前政権が予定していた法人税率の引き上げを取りやめるとした。さらに、所得税の基本税率を下げるという大減税策を打ち出した。

国債発行額は、当初計画から724億ポンド(約7兆円)増額された。

これに対して、市場金利がただちに急騰した。トラス政権の発足前には2.8%であった10年国債の利回りが、9月27日には4.5%になった。ポンドの対ドル相場も、9月26日に、1ポンド=1.03ドルという最安値を記録した。

長期金利が急騰したため、年金基金で損失が膨らんだ。損失に伴う支払いのために、債券や株式を売却した。

これに対して、イングランド銀行(BOE)は、ごく短期的に国債の買い入れを開始したが、すぐにやめた。

これによって、トラス氏はバラマキ政策を撤回せざるをえなくなり、そして辞任に追い込まれたのだ。

つまり、長期金利高騰がトラス政権の無謀な経済政策を拒否し、倒閣させたことになる。

日本では、金利という経済の体温計が壊されている。だから、病気になっているのに、それがわからない。

長期金利が上がると、さまざまな困難が発生するという。そのとおりだ。 

財政資金の調達が困難になるという。そのとおりだ。いままで、容易すぎたので、無原則なバラマキが行われたのだ。

住宅ローンの金利が上がるという。そのとおりだ。いままで低すぎたので、マンション価格が高騰したのだ。

いま日本では、低すぎる金利によって引き起こされた歪みを矯正することが必要なのである。

市場原理を働かせて不合理な政策を撤回させたイギリスと、国債市場が機能不全に陥っても金利抑制を続ける日本と、どちらが健全な経済か? われわれは、胸に手を当てて、じっくりと考えねばならない。

そして、経済の体温計を壊した国の将来がどうなるかを、冷静に判断すべきだ。

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野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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