サントリー「一線を超えたビール」が意味すること 「ビアボール」は既存のビールの概念を変えるか

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こうしたアレンジ性の高さは、ビールを敬遠していた人たち、特に若者への訴求力は高いのではないでしょうか。

もう1つ指摘しておきたいことがあります。それは、ビアボールがビールでありながら、そのコンセプト、味わい、そして飲用スタイルが実質的にチューハイであり、想定される競合商品もチューハイのため、この商品が飲食店において自社の瓶ビールや樽生の競合商品になりにくいということです。

ホッピーのポジションを獲得することで既存商品を減らすことなく、サントリー製品の取り扱い点数を増やすことを見込める、というのもまたビヨンドビール的です。

酒の消費量を増やすことは難しい

酒類の消費量は年々減少し続けています。成人1人あたりの消費量を見ると、1992年の101.8Lをピークに、2020年は75Lまで減りました。酒類産業の縮小、ひいては、お酒文化の衰退も大きな問題で、先日話題になった「サケビバ」もこういった状況を重く見た国税庁の施策だと思われます。

若者の酒離れだけでなく、若者の人口そのものが減っていく中、お酒の消費量の増加を見込むことは難しく、酒類メーカーにとっては高付加価値商品の開発が急務となっています。

昨年、一昨年はノンアルコールビールやいわゆる微アルの缶がヒットし、クラフトビールカテゴリーの拡大も見られました。これらは世界的にもまだまだ伸びしろがあるとされていますが、遅かれ早かれ同業他社がキャッチアップしてきて熾烈な競争が生まれることでしょう。

となれば、高付加価値商品の販売と並行して成長が見込める新たなカテゴリーにチャレンジしていかなければなりません。ビールというジャンル内の各セグメントで競争するだけでなく、中長期的なスパンで商品ポートフォリオを拡大して、他のジャンルへ参入するのも必然的な流れです。

現状を打破する新規事業開発という意味でビヨンドビールという考え方は重要な思考のフレームワークとなるでしょう。自社の強みが何かを各企業が見つめ直し、それを軸にした新たな展開が今後も期待されます。

沖 俊彦 CRAFT DRINKS代表

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おきとしひこ / Toshhiko Oki

1980年大阪府生まれ。酒販の傍らCRAFT DRINKSにてクラフトビールを中心に最新トレンドや海外事例などを通算650本以上執筆。世界初の特殊構造ワンウェイ容器「キーケグ」を日本に紹介し、販売だけでなく導入支援やマーケティングサポートも行う。2017年、ケグ内二次発酵ドラフトシードルを開発し、2018年には独自にウイスキー樽熟成ビールをプロデュース。また、日本初のキーケグ詰め加炭酸清酒“Draft Sake”(ドラフトサケ)も開発。ビール品評会審査員、セミナー講師も務め、昨年は大学院にて特別講義も。

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