震災下での東京都内・在宅医療の現場--業務用車の燃料調達に苦慮、高齢者は困難に直面
東日本大震災では、東京都内でも医療必要度が高い高齢者への対応が大きな課題になっている。
東京・大田区で在宅医療にたずさわっている高瀬義昌医師(たかせクリニック院長)の訪問診療に同行し、課題を探った。
たかせクリニックは主に大田区に居住する高齢者など約280人の患者に、在宅医療を提供している。診療所スタッフは、医師3人および看護師や事務職員ら20人弱。軽自動車3台および自転車2台で地域の高齢者宅に出向き、訪問診療に従事している。
震災直後から大きな問題になったのが、職員の交通の確保および訪問診療で使用する自動車に必要なガソリンの確保だった。近隣に住む職員が多いものの、千葉県など遠隔地に在住する職員は通勤困難に見舞われた。ガソリンについては、診療所の運転手がガソリンスタンドをあちこち回って、給油を続けているが、厳しい状況が続いている。
運転手の坂井栄次氏によれば、「これまでガソリンスタンドに3回並んだが、満タンまで入れることはできず10リットルに制限された」。訪問診療途中の�瀬院長には、知己の訪問歯科診療にたずさわる歯科医師からも「ガソリンが入手できずに困っている」との連絡が入ってきた。診療の途中の幹線道路では、ガソリンスタンドで給油を待つ車が長蛇の列をなしていた。
高齢者は多くの問題に直面している。この日、訪問した認知症対応グループホームでは、2人の高齢者を診察した。1人は車いすに乗っており、もう1人は100歳。2人ともグループホームの2階で生活しているが、停電になった場合、エレベータが動かなくなる。また、夜間は勤務する職員が1人しかいない。停電の場合、暖房や冷蔵庫が使えなくなる。また、コメなど食材費の安定調達にも職員が気を揉んでいた。
高瀬院長は震災直後の週末に診療した85歳の高齢者を病院に入院させた。「家族介護力が弱く、在宅生活は困難」(高瀬院長)と考えたためだ。ただ、今後も「必要な時に入院させることができるかは、わからない」と高瀬氏は話す。