【産業天気図・保険業】トップラインの成長望めず、収益復元力を欠いた展開続く

拡大
縮小

2005年度も保険業界はトップライン(売り上げ)の成長余地が乏しく、収益復元力は限定されたものとなろう。
 損保業界は04年度のような台風・大雨など自然災害多発による巨額の支払保険金はないだろうが、相変わらず正味収入保険料の成長は見込めそうにない。売り上げの半分強を占める自動車保険は構造的要因で依然単価が下落し、微減基調が続く公算大。第2柱の火災保険も昨年の自然災害の多発を直ちに保険料値上げに反映させることはない模様で、ここでも成長は限られる。賠償責任保険など新種保険や医療保険などは拡大が見込めそうだが、まだ構成比が小さく、損保会社全体の売り上げ拡大への寄与度は限定的レベルにとどまる。
 過去3年にわたって損保会社の収益拡大に寄与した損害率も、改善余地が小さくなっている。合併に伴う事業費圧縮効果も同様。持ち合い株売却は続くとしても、株価が現状レベルならば、むしろ売却益はネットで縮小方向の会社が大半だろう。というわけで、損保会社の収益成長力は極めて小さいレベルにとどまりそうだ。
 その中でも、大手と中堅以下の格差拡大が進行していこう。1つには、自然災害の多発もあって減った異常危険準備金の積み増しで、中堅以下の損保では費用拡大となる会社が増える見通し。大手では三井住友海上が成長力で比較最優位にあるが、昨年成功した大型アジア損保事業がどう収益にオンしてくるかが注目点だ。
 一方、生保業界は国内大手を中心に、主力の死亡保険市場は長期の構造的縮小過程に入っている。いかに医療保険などの第3分野や個人年金中心の銀行窓販市場を拡大させ、保険料収入の目減りを減らし、あわよくば拡大に結びつけるかが各社の競争のポイントになる。
 医療保険など第3分野で積極策に転じた第一生命や住友生命に対し、動きの鈍い日本生命、明治安田生命は好対照。外資上位組のアフラックやアリコは、それぞれ得意分野の医療保険や定額年金・通販で成長をキープするだろう。
 株価はある程度安定し、巨額評価損などは出なくなった。しかし、逆ザヤ問題は依然続いている。長期の高予定利率契約(保険会社にとっての負債)が残っているのに、資産サイドの利配収入も含めた運用利回りは、まだ下がる傾向にあるからだ。過去の高利確定債券が満期を順次迎えるのが響くうえ、受取株式配当の増加はあるものの、新投資先の債券利回りは10年もの国債で1%台半ばに過ぎず、運用利回りが下がらざるをえない構造に陥っている。
 生保業界も「好調な大手外資組VS劣勢の国内大手組」の構図は変わらないが、国内大手組の中でも医療保険などへの取り組み戦略の成否によっては今後の収益成長で格差が開く可能性を孕んでいる。05年度は、そういう構造変化の芽が鮮明化する年になるかもしれない。
【大西富士男記者】


(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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