東大教授が解説「量子力学」が拓く人類の可能性 今年のノーベル物理学賞の受賞テーマに熱視線

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実は私も先日、電子顕微鏡写真で原子を見る機会があったのですが、原子核の周りにボヤーっと雲がかかっているように見えるんです。「電子」の粒がはっきる見えるわけではないし、きれいな軌跡が見えるわけでもない。

昔の科学者も「電子くるくる回転説」を考えたのですが、なぜそれが否定されたかというと、原子の構造が地球と月みたいな関係だとするとニュートン力学では説明できなくなるんです。

もしニュートン力学で電子の動きを計算すると、電子がエネルギーを失って最終的に原子核とくっついてしまうはず。でも実際はくっつかず、永遠に回り続けるんです。

ということは、少なくともミクロの世界においてはニュートン力学とは異なる何かしらの原理原則で動いているんだろうと考える人たちが出てきます。それが量子力学のはじまりです。

プランクやディラックといった科学者が頑張ってくれたおかげで、ついにその原理を突き止めます。大学レベルの話なので詳しくは触れませんが、その原理原則のことを「不確定性原理」と呼びます。超簡単に言うと、電子の動きを「確率」で捉える。つまり統計ですね。

量子コンピューターの可能性

量子力学の世界を描写するには統計を使わないといけないんです。最近よく耳にする「量子コンピューター」というまったく新しい仕組みのコンピューターも、「電子の動きを統計的に捉える」という量子力学のロジックを使ってつくられています。

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普通のコンピューターは0か1で動いていますが、量子コンピューターはそのように白黒ハッキリさせないで、全部パーセンテージで考える。どこにいるかわからないという不確定さをうまく逆手にとって計算をすることで、複数の計算を同時にできる。従来のコンピューターが何年もかかる計算が1秒でできるとか、そういう画期的な技術がまさに今開発されているところですね。

将来的には、量子コンピューターに適した計算は量子コンピューターにさせるというように、使いわけをすることになると思います。

今回は、量子力学の初歩的なお話をご紹介しました。

私たちにとって身近な世界の原理原則を扱う「力」「熱」「波」「電磁気」の4分野は高校で習いますが、このように極端に小さい世界を扱う「量子力学」は大学で学ぶ学問です。

そもそも物質の根源を追求する、注目を集める最先端の研究ですので、少しでも興味を持ってもらえれば幸いです。

西成 活裕 東京大学先端科学技術研究センター教授

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にしなり かつひろ / Katsuhiro Nishinari

専門は数理物理学、渋滞学。1967年、東京都生まれ。東京大学工学部卒業、同大大学院工学研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。その後、ドイツのケルン大学理論物理学研究所などを経て現在に至る。予備校講師のアルバイトをしていた経験から「わかりやすく教えること」を得意とし、中高生から主婦まで幅広い層に数学や物理を教えており、小学生に微積分の概念を理解してもらったこともある。著書『渋滞学』(新潮社)で、講談社科学出版賞などを受賞。ほかに『とんでもなく役に立つ数学』『とんでもなくおもしろい仕事に役立つ数学』(KADOKAWA)、『東大人気教授が教える 思考体力を鍛える』(あさ出版)など、著書多数。

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