信者家族「たたかれた子」と親の間の埋まらない溝 「信仰心による体罰」責任を負うのは親だけか

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孝さんも大学には進学せず、23歳から教団の日本支部に献身する生活を送る。ところが20代の半ばでオーストラリアを視察したことをきっかけに、日本の伝道のありかたに違和感が生じる。

「オーストラリアの信者の多くが正規の職業に就き、実社会での生活と伝道活動とを両立させていました。大学進学が容易には認められず、一般企業への就職も良しとされない日本では、あまりにも伝道活動が優先され過ぎている。そのことで2世たちの生き方が極端に狭められていると感じたのです」(孝さん)

組織から離れた孝さんはIT企業で働く傍ら、自身と同じ境遇で育ったエホバ2世たちと定期的に集まり、各々が抱える悩みを語り合う場を作るようになった。2世の中には、実社会に出て自立した生活がしたくても、学歴や職歴がないことから叶わなかったり、幼少期に受けた体罰がトラウマとなり、大人になって精神疾患を発症したりする人もいた。

こうした自身を含めた2世たちが被る実害を、孝さんは両親に直接ぶつけるようになる。

すれ違う親子の見解

孝さんの不満に、両親は言葉を詰まらせる。大学に進学させなかったことについて、優子さんは「孝に、何かやりたいことがあれば大学に行かせてもよかったと思っている」と弁解した。

剛さんも同じだ。「孝が『大学に行かせてもらえなかった』と言うのであれば、それは申し訳なかったと思う。だが、いったい何を学びたかったというのか。もし本当に大学に行って勉強したい何かがあったのならば、自分で壁を乗り越えるべきだったのではないか」。

しかし、両親の言い分に孝さんは納得できない。

「たしかに当時、大学に行きたいという気持ちはなかった。エホバの証人では大学には行かないのが当たり前。そんな環境で育てられてきた。子どもの頃から将来の夢なんて持てなかったし、大学進学なんて選択肢にすら上がらなかった。でも、周囲と同じライフスタイルを送りたいという気持ちはあった。それが、そんなにおかしいことなのか」

エホバの証人2世が感じる苦痛

孝さんは小学2年生のとき伝道者の資格を取り、学校から帰ると布教活動に出かける日々を過ごした。学校生活でも周囲と同じ行動をとることが難しい場面が多くあった。エホバの証人では、スポーツ競技や運動会での応援、誕生日会への参加を禁じるといったさまざまな制限事項があるからだ。

次ページ両親の「後悔」と「確信」
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