信者家族「たたかれた子」と親の間の埋まらない溝 「信仰心による体罰」責任を負うのは親だけか

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孝さんの母親優子さんと父親剛さん(共に80代、仮名)が聖書に出会い、エホバの証人の信者となったのは1975年前後のこと。孝さんが2歳の時だった。

近い将来ハルマゲドンがきて世界は終わる。が、聖書の教えを実践する者は生き延びて「楽園」に行くことができる――。そうしたエホバの証人の教義に2人は共鳴した。

結婚前から精神的な病に苦しみ、子育てにも不安を覚えていた優子さんは「聖書の中にすべての答えがあった」と感じたという。剛さんもまた、当時の社会情勢からエホバの教えに現実味を覚えた。

「当時、自動車や工場から出る排出ガスの影響で東京の空はどす黒い雲に覆われ、真っ暗でした。海は毒物で汚染され、魚が減り、人体にも影響が及び始めていた。エホバの証人の『終末論』は真実だと思いました。この真実を知らない人に教え、広めていかなければと感じたのです。会社で働いてお金を稼ぐよりも、伝道活動に身を捧げたいと」(剛さん)

伝道者(信者)となった剛さんと優子さんは、エホバの証人の教えを厳格に守った。剛さんは「正規開拓者」となり、組織内で定められた月90時間(現在は70時間)の布教活動をこなすようになる。父親の剛さんは勤務していた会社を退職し、家も売却した。

「むちで打つべき」と教える聖書

聖書の教えを忠実に実践する中で起きたのが、息子の孝さんへの体罰だった。聖書には次の一節がある。

「少年を懲らしめるのを控えてはならない。むちで打つ場合、彼は死なない。彼をむちで打つべきである。彼を墓から救うためである。わが子よ、あなたの心が賢くなったら、私は心から喜ぶ」(ものみの塔聖書冊子協会発行の『聖書』)

体罰の根拠となる聖書の一節
エホバの証人の『新世界訳聖書』(編集部撮影)

優子さんと剛さんはこの教えに従って孝さんをたたいた。「むち」には竹の定規やベルト、時にゴムホースなどが使われ、「1回でいいところを2回、3回と余分にたたいてしまった」と述懐する。

エホバの証人の2世にふりかかるのは体罰だけではない。伝導活動を優先させる組織の力は強く、2世たちは大学進学はおろか一般企業に就職して働くことも憚る人が少なくない。世界の終わりを目前にして学問をしたりお金を稼ぐことは、聖書に忠実に生きることを誓った者が「約束違反」をしていると見なされるからだ。

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