アザラシの愛情深く尊い「出産・子育て」の全貌 0歳で保護された母親は本能に従い、子を育てた

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一方のようちゃんは、泳いでいる赤ちゃんの首のあたりをくわえようとして、その後も何度も赤ちゃんを沈めた。野生のウェッデルアザラシでは、母親が餌を獲るための深い潜水以外に浅い潜水を行うことがあり、浅い潜水時の記録画像には子どもの姿が写っていたことが報告されている。

水族館で生まれたゴマフアザラシの赤ちゃんは、まだ全身ホワイトコートの状態で、お母さんアザラシと一緒にプールで泳いでいる。はじめは、ようちゃんも赤ちゃんに泳ぐ練習をさせようと、赤ちゃんが潜るように仕向けているのかなと思ったのだが、どうやら違ったらしい。

よくよく観察してみると、ようちゃんは、イヌやネコのお母さんがするように、赤ちゃんの首をくわえて陸に持ち上げようとしたり、陸から引っ張り上げようとしていたのだ。プールに落ちてしまった赤ちゃんを、どうにか助けようとしたのだろう。しかしながら、約6kgもある赤ちゃんをようちゃんの力で持ち上げることはできず、結局、飼育員が助けに入ったのだった。

その後の2日間は、赤ちゃんはほとんど泳ぐ練習をしなかったが、3日目には2頭でじゃれあいながら泳ぐ姿が確認された。赤ちゃんは、お母さんを追いかけて少しずつ深く潜れるようになっていった。

陸へ上がるのはまだ苦手だが、いざとなれば丘場に上がれることを赤ちゃんはちゃんと覚えていた。泳ぎの練習のあとには、赤ちゃんの毛を乾かそうとしているのか、ようちゃんは前肢で赤ちゃんの体を優しくカリカリとかいてあげていた。

コンクリートの上で生活していた赤ちゃんは、背中の毛が擦れてなくなり、黒い皮膚がむき出しになってしまっていたのだが、生後13日目になると、そこに新しい毛が生えてきた。そのころには泳ぎも上達し、お母さんから離れて泳ぐ時間も増えていった。

生後16日目にホワイトコートがごっそり抜け始めると、生後約1か月で換毛が終わり、きれいな輪っか模様のアザラシになった(この子に名前を付けるのはもう少し先のことなのだが、もう赤ちゃんではないので、ここから先は「ひかる」と呼ぶ)。

乳離れの時期

ようちゃんは、プールの中で餌を食べる際、途中で何度もひかるくんのもとへ泳いでいき、ひかるくんの様子を確認していた。ひかるくんが生後5~6週ごろになると、自分がもらった魚を食べずにプールに沈め、ひかるくんがそれをくわえて遊ぶのを近くで見守ることがあった。

まだ授乳中ではあったが、もしかしたらこの行動は、ひかるくんに魚を食べることを教えようとしていたのかもしれない。

アザラシの親子
ようちゃんとひかるくんのお昼寝(筆者撮影)

生後6週ごろになると、授乳中にようちゃんが動いて授乳を中断してしまったり、ひかるくんが「んーんー」と鳴いてもようちゃんは授乳体勢をとらなくなったりしていた。ちょうど野生下では親離れする時期だ。甘えん坊のひかるくんはその後もおっぱいをねだり続けたが、生後7週を過ぎたころから丸一日授乳を確認しない日も増えていった。

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