アザラシの愛情深く尊い「出産・子育て」の全貌 0歳で保護された母親は本能に従い、子を育てた

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赤ちゃんが生まれてから1週間後、親子を子育て用のプールへ移動させた。広めの陸上スペースにつながったプールで、赤ちゃんがお気に入りの木の台や、ようちゃんこだわりのキス台は陸上スペースに移設した。ここなら赤ちゃんは安全に成長し、ようちゃんはプールで泳ぐこともできる、と思っていた。

赤ちゃんがプールに落ちるも…

移動から約30分後、好奇心旺盛な赤ちゃんはプールを覗き込み、滑ってプールに落ちた。ようちゃんはすぐ近くでその様子を見ていたが、入水しようとはしない。赤ちゃんは必死に前肢でもがいて陸へ上がろうとしている。プールの排水をオーバーフローにして、通常よりも水位を上げてはいたのだが、陸の床がツルツル滑り、赤ちゃんの力では上がることができない。

慌てて飼育員が助けに入り、ようちゃんにガブガブ咬まれながら、赤ちゃんをプールからすくい上げた。床に降ろすと、赤ちゃんは陸上スペースへと帰っていき、そこでようちゃんにおっぱいをもらっていた。とりあえず、大丈夫そうで一安心した。

そう思ったのも束の間、数時間後には、再び赤ちゃんが入水していた。見ると赤ちゃんはプールへ落ちたであろう場所から数メートル離れたところにある丘場の前までたどり着いており、ちょうど丘場に上がるところだった。

丘場は、先ほど落ちた場所よりも、床がザラザラしていて上がりやすい。しかも、ちゃんとようちゃんが赤ちゃんを後ろから押して、丘場に上がるのをサポートしていた。

その後、赤ちゃんがプールに落ちた場所からでも上がって陸上スペースに戻れるよう、プールにスノコを浮かべることにした。そのスノコを設置している最中のこと、赤ちゃんがプールの前までやってくると、先に入水したようちゃんは赤ちゃんの前に顔を出しては泳ぎにいく、を繰り返した。まるで、赤ちゃんをプールへ誘っているかのようだった。

アザラシの親子
プールの前にいるようちゃんと赤ちゃんのひかるくん(筆者撮影)

翌日、赤ちゃんがプールに浮かべたスノコの上に乗った時のことだ。入水していたようちゃんが、赤ちゃんが乗っているスノコの上に体重をかけ、スノコを沈めたのである。スノコごとプールに沈められた赤ちゃんは、前肢でもがくだけだった前日とは異なり、その日は下手くそながらに後肢を振って泳ごうとしていた。

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