そのころには、ひかるくんは強制給餌で魚を食べる練習を始めていたのだが、体重が24kgもあり余裕があるせいか、なかなか自分で魚を食べなかった。
最後に授乳体勢を確認したのは6月3日だったが、吸う時にチュパチュパと音がしており、母乳が飲めていたかは不明である。この時、ひかるくんの体重はまだ22kgほどあったのだが、よっぽどおなかが空いていたのだろうか。ちょうど生後11週に入る翌日から、自力で魚を食べ始めた。
友達に恵まれて
離乳後もしばらくのあいだ、ひかるくんはようちゃんの行動をよく見て真似していた。特に他個体に対する態度は気の強いようちゃんそのもので、ようちゃん以外の同居しているアザラシたちに対して強く当たり、怒るようなことも多かった。
ひかるくんより年上のアザラシたちは、それでも怒らずに温かく見守っていてくれたが、こんな性格で将来大丈夫なのかと、親心ならぬ祖母心に心配した時期もあった。
そんなひかるくんの転機となったのは、冬の除雪作業だった。当時、ひかるくんは2歳年上のポンすけくんと同じプールで生活していた。離乳後の体重減少がほとんどなかったひかるくんはポンすけくんよりも体が大きく、ポンすけくんに対してもとても強気な態度をとっていた。
ところが、雪が降ったある日、プールの周りの観覧通路を大人数で雪かきしていると、いつも食欲旺盛なひかるくんが、呼んでも飼育員の方へ近づいてこなかった。餌を食べなくなってしまったのだ。もっと雪が降り、除雪のためにタイヤショベルがとっかりセンター内に入ってきた時も、ひかるくんは同じ反応だった。どうやらひかるくんは除雪作業が怖いらしい。
そんななか、年上のポンすけくんは、除雪作業などまったく気にせず、いつもどおり餌を食べている。その様子を見たひかるくんはポンすけくんを尊敬したのか、兄のように慕うようになった。ポンすけくんのあとをついて回り、兄弟のように一緒に遊ぶようになると、徐々に他のアザラシに対する態度も柔らかくなっていった。
あんなにきつく当たっていた父親のかつのりくんとも、ポンすけくんと3頭で追いかけっこをして遊ぶようになった。人間関係と同様、アザラシ関係も大変だ。ひかるくんはいい友達に恵まれて幸せだっただろう。
ようちゃんは全身ホワイトコートの状態で保護されている。ようちゃん自身は、お母さんに泳ぎ方や魚の食べ方を教えてもらう前に、はぐれてしまった可能性が高い。それでも、ようちゃんは本能に従い、立派に子育てをやり遂げた。
私がとっかりセンターでのボランティアに参加した時、まだ保護されて数か月の0歳のようちゃんがいた。そのようちゃんが大きくなり、かつのりくんと出会って恋をして母親になったのだから、とても感慨深い。ようちゃんの子どもであるひかるくんは、私にとって目に入れても痛くないほど可愛い、孫のような存在だった。
ひかるくんは3歳を迎えた1週間後、2021年3月28日に亡くなった。残念ながらひかるくんは長生きできなかったが、今でもようちゃんのなかにひかるくんを見ることがある。ようちゃんにはこれからも元気で、ひかるくんの分まで長生きしてほしい。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら