アザラシの愛情深く尊い「出産・子育て」の全貌 0歳で保護された母親は本能に従い、子を育てた

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一方、お母さんであるようちゃんは、ようちゃん自身も一緒に入ることができるキス台の下を赤ちゃんの隠れ場所にしよう、と考えていたらしい。実際、ようちゃんは出産前に何度も飼育員の目を盗んではキス台の下に潜り込み、キス台の脚を前肢で叩いて、建て付けを確認していた。

「んーんー」と赤ちゃんが鳴いておっぱいをねだると、ようちゃんはゆっくりキス台の下へ移動する。赤ちゃんは必死にお母さん(ようちゃん)のあとを追いかけ、キス台の下に入るとおっぱいをもらう。そんなことを何度も繰り返し、赤ちゃんに「ここがあなたのお部屋よ」と教えているようだった。

飼育員が赤ちゃんに近づくと……

出産後の数日間、ようちゃんは赤ちゃんのそばにつきっきりで、赤ちゃんがどこへ探検しにいくにも後ろからついて行き、近づいてくる飼育員に対して威嚇していた。出産から1週間くらい経つと、少し離れた場所から赤ちゃんを見守るようになったが、飼育員が赤ちゃんに近づきすぎると、慌てて駆け寄ってきて威嚇する。

また、ようちゃんと同じプールで生活していた赤ちゃんの父親であるかつのりくんが広場に出ようとすると、ものすごい剣幕で怒り、プールへ追い返していた。水中での生活が得意なアザラシにとって、何かあった時に逃げ込むことができる水場のない環境は不安である。そこで、出産後もようちゃんがいつでもプールに入れるよう、プールの扉を開放していた。

ようちゃんは、赤ちゃんのそばにつきっきりだったはじめの数日間も、一日に何度かはプールへ入水していた。はじめのうちは、私もそのことを特に気に留めておらず、赤ちゃんも木の台の下に隠れて寝ていることだし、気分転換にプールに入ったのだろうと思っていた。

しかし、何日か経ち、あることに気がついた。ようちゃんは1日のほとんどを広場で過ごしているにもかかわらず、ようちゃんの排泄物をまったく見ていないのだ。ようちゃんは、出産した当日から餌を食べていた。いくら赤ちゃんに栄養たっぷりの母乳を与えているからといって、ようちゃんがまったく排泄しないわけがない。

その時に気づいた。プールに入るのは、排泄のためなのだろう。アザラシは陸上でも水中でも排泄をする。もちろん、ようちゃんも例外ではない。この行動は、赤ちゃんの成育環境を清潔に保つためや、天敵に自分たちの存在を気づかれないようにするためなのではないか。だとしたら、やはり野生の本能は素晴らしい。

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