がん患者でも仕事を続けたほうがいい絶対的理由 治療費の問題だけじゃない、働くことの意味

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がん治療について調べていくと、標準治療とは別の治療として、「治験」や「先進医療(注)」という言葉に出合うことになると思います。

治験は厚生労働省の監督のもと、この先の保険適用を目指し、新しい薬や治療法などの効果や安全性を確認するために、患者さんに参加してもらって行う臨床試験のことをいいます。試験なので抗がん剤などについて治療費は発生しません。治験で十分な結果が出て、厚生労働省の承認が得られれば、数年後には日本全国で保険適用になります。

治験には、製薬会社などの企業が主体となって進める試験と、医師が主体となって進める試験がありますが、最近は企業が主体となって行われる場合が多いです。治験に参加する患者さんの経済的負担を軽減するため、採血やCT検査など治験中の医療費の一部も、治験を依頼する企業や医師が負担します。

一方、先進医療も厚生労働省の監督の下に行われるものですが、少数の患者さんで一定の効果が認められた場合、先進医療として認められ、もう少し多くの患者さんで効果や副作用を確認してみようという段階のものです。ただし、データがよかったからといって、そのまま保険適用になるわけではありません。

また、先進医療の場合、治療費は、患者さんがすべて負担することになっています。中には治療費が数百万円かかるというものもあります。

公的保険が適用されず患者さんが治療費を負担する点では、自由診療と似ていますが、自由診療と違うところは、厚生労働省に届け出て実施しているという点です。また自由診療の場合は、本来、保険適用である検査や副作用対策の薬剤などを含め、すべての医療費が患者負担となります。

※注「先進医療に係る費用」は、患者が全額自己負担することになります。「先進医療に係る費用」は、医療の種類や病院によって異なります。
その他の診察料、検査料、投薬料、入院料などには公的医療保険が適用されます。なお、厚生労働省に届け出た医療機関以外で先進医療と同様の治療・手術などを受けても先進医療とは認められません。

先進という言葉の響きで誤解も

先進医療は、保険診療として承認されるのに十分な、効果や副作用についてのデータがまだありません。標準治療より優れているかどうかの検証も済んでいません。

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にもかかわらず、「先進」という言葉の響きと、数百万円の費用が必要になることもあるという2点で、多くの人が、先進医療は標準治療よりも優れていると誤解してしまうようです。

最近は民間の医療保険に、少額で先進医療特約を付帯することができるものもあります。この特約があれば、高額の費用を払わずに先進医療を受けることができます。

ただし、どんながんにでも先進医療が適用できるわけではありません。いずれにしても、主治医とよく相談し、ご自分が先進医療を受けることがよさそうな病状か否かを確認する必要があります。

井岡 達也 腫瘍内科医、山口大学医学部附属病院腫瘍センター准教授

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いおか たつや / Tatsuya Ioka

1990年日本大学医学部を卒業後、自治医科大学消化器内科を経て、1997年8月~2020年3月大阪国際がんセンタ-にて膵がんセンター内科系部門長を務める。2020年4月から現職。NHK「ためしてガッテン」などメディア取材多数。多くのがん患者の治療に日々取り組む、抗がん剤治療の第一人者。特に膵癌や胆管癌の治療実績では定評がある。

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