英国王室が「手数料資本主義」の象徴である理由 「密輸」「タックスヘイブン」「王室属領」の帝国

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王室属領は、内政に関してイギリスから独立し、独自の議会を有しているとしても、君主がイギリス国王である以上、イギリスの利害と大きな関係があることは容易に推察されよう。したがってイギリス国王はその地位を、自らのためにも、そしてイギリスの利益のためにも使用することができる。イギリス議会は、国王を通じてタックスヘイブンを利用しているととらえられる。

タックスヘイブンを通してイギリスの国家と王室の関係を見れば、このようにまとめることも可能なのである。イギリスの国家と王室は、じつに微妙なバランスの上に存在しているのだ。しかももしタックスヘイブンがスコットランドとアイルランドにも利益を提供できれば、この二地域が「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」の一部として機能することにより、大きな利益を得ることができるかもしれないのだ。

とすれば、イギリス王室がイギリス国家にとってどのようなプラスの効果をもたらしているのか、わかっていただけるものと思われる。

イギリスの国葬と金融の関係

2022年9月19日のイギリス国葬では、新国王チャールズ3世は軍服を着ていた。これは、百年戦争以降敗戦を知らないイギリスが、19世紀に世界を武力で支配したことを象徴する光景であった。

イギリスは、ある面で賢明なことに、国王が統治するけれども、イギリスという国には属さない地域を海外にもっている。それは、イギリスという国の利害関係にまきこまれながらも、なお自立しているばかりか、コモンウェルスにも属していない地域である。そのような地域がタックスヘイブンであるという事実こそ、イギリスの特質の一面を表しているといえよう。

先日のイギリスの国葬は、王室属領の君主が替わったことを示す儀式でもあった。イギリスの国制は非常に複雑であり、それが旧植民地だけではなく、世界の経済、とくに金融に大きな影響を与えていることを、私たちは認識すべきである。

イギリス王室とは、コミッション・キャピタリズムの象徴なのである。

玉木 俊明 京都産業大学経済学部教授

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たまき としあき / Toshiaki Tamaki

専門は近代ヨーロッパ経済史。1964年、大阪市生まれ。同志社大学大学院文学研究科(文化史学専攻)博士後期課程単位取得退学。博士(文学、大阪大学)。著書に『ヨーロッパ覇権史』『ヨーロッパ 繁栄の19世紀史』(ちくま新書)、『近代ヨーロッパの誕生』『海洋帝国興隆史』(講談社選書メチエ)、『〈情報〉帝国の興亡』(講談社現代新書)、『近代ヨーロッパの形成』(創元社)、『ダイヤモンド 欲望の世界史』(日本経済新聞出版)など多数。訳書にヤコブ・アッサ『過剰な金融社会』(知泉書館)などがある。現在、ウェブメディア「Modern Times」にて連載中。https://www.moderntimes.tv/

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