英国王室が「手数料資本主義」の象徴である理由 「密輸」「タックスヘイブン」「王室属領」の帝国

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スコットランドがイギリスから離脱する動きがあるのは、もはやイングランドとの連合からの利益があまりないと考えたからである。だが、あとで述べるように、それは正しい認識とはいえないかもしれない。

イギリスをともかくも一つの国として維持するための絆は、決して強くはない。イギリスは、徐々に分裂しつつある国だといっていいかもしれない。それは、ブレグジットを推進したイングランドと、EUとの関係を維持したいというイングランドの姿勢の相違にも現れている。さらに、北アイルランドにも、イングランドから離れようという動きがある。

このように決して一枚岩とはいえないイギリスをなんとかまとめ上げてきたのは、大英帝国の存在であった。

イギリスは、世界にまたがる大帝国を形成していた。スコットランドもアイルランドも、ある程度、その恩恵にあずかってきたのだ。しかもそれは、「王室属領」というものと大きく関係していた。

金融帝国としての大英帝国

大英帝国とは金融の帝国であった。それが、私が「東洋経済オンライン」の前回記事で主張したことであった。大英帝国は、世界史上最大の帝国であり、19世紀末になると、帝国の各地が網の目のように張りめぐらされていた金融ネットワークによって結びつけられるようになった。それは現在のタックスヘイブンにつながるわけだが、ここでタックスヘイブンと大きく関連する租税回避行動について見てみよう。

租税回避行動とは、税というものが発明されてからずっと続いている行動であることは言うまでもない。16-18世紀(近世)のヨーロッパでは、国際的な経済活動とは、おおむね貿易活動を意味した。そのため租税回避行動とは、関税を避けるという行動形態をとった。それが、現代において、法人税を避けるという行動へと変化したのである。この行動は、ICT技術の変化によって可能になった。とはいえ、近世と現代の租税回避行動には連続性もあった。それは、小さな島を利用するという点である。

19世紀のイギリスは、世界最大の商船隊を有し、さらに世界全体に電信を敷設することによって、世界経済を一体化していった。それは、さまざまな地域の商品が世界中で販売されるだけではなく、世界中の金融が、ロンドンを中心として結合されたということでもある。イギリスはそのために巨額の手数料収入を獲得し、コミッション・キャピタリズム(手数料資本主義)の国として繁栄した。現在のタックスヘイブンのインフラは、すでにこの時に完成していたといえよう。

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