ヤマザキマリと考える「情報の真偽を見極める力」 情報の数々を自ら判断する力を鍛える必要

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彼らがアフガニスタンの政権を掌握してから1年が過ぎましたが、当初対外的に掲げていた女性の平等も、実践されているような気配はいまだにありません。同じイスラム過激派組織で言えばISは、かつて我々家族が暮らしていたシリアの古代遺跡をことごとく粉砕し、シリアのパルミラ遺跡の研究者としては唯一無二と言える存在だった高齢の考古学者を殺害しました。

彼らにとって人間の知性や感性の発達は群衆統括というストラテジー(戦略)において最も厄介なものであり、そこをまず潰してしまわなければ国家は成立しないという妄信に駆られているのです。

日本のような先進国でISやタリバンのような集団が力をもつことはないだろうし、ましてや文化大革命みたいなことなんてあり得ない、先進国とは無関係な話だ、などと思い込みたい気持ちはわかりますが、実は過去にも非常に高度な文明が知的レベルの低い文明にあっという間に転化してしまった史実があるのです。

例えば地中海世界は、ミノス、古代ギリシャ、エトルリア、古代ローマと、着々と文明を発展させてきましたが、それがやがて北方で寒さと痩せた土壌に苦しんでいたゲルマン民族の侵攻により、転覆させられるという顛末を迎えます。男女共に貴金属で身を飾り、贅沢な食卓を囲み、下水道の発達によって入浴文化も栄えていたローマ人のハイスペックな生活が、自分たちよりもずっと文明度が劣っているはずの"蛮族"によって壊されてしまったのです。

崩壊へのプロセスで何より致命傷となったのは、ゲルマン民族が水道といった文明の発達を象徴するインフラを破壊したことです。水が供給されなくなったことで、帝国をあれだけ拡大させる外交手段でもあった「お風呂」が機能しなくなり、そこから顕著な文明の衰退と崩壊が始まります。冷静さを失った人々には理性も倫理も意味をなさず、犯罪行為も増え、心身共に脆弱化した状態のもとに拡張していったのが、キリスト教という宗教でした。

「人間は愛です。人殺しはいけません。愛は赦しです」という人間の優しさや慈愛を軸としたメッセージは、生きることに疲れていた多くの民衆にとって、それまで自分たちを統括していたローマ法や他宗教の理念よりも魅力的に感じられたことでしょう。

高度な文明が失われる

そして、宗教の力を利用した教会権力が台頭し、民衆を宗教的教義で強く拘束する政治が執行される、いわゆる"暗黒の中世"へと時代は移行していきました。

文化的にはこの中世時代にも様々な発達はありましたが、古代ローマ時代の最盛期に学術者や芸術家が極めていた、あらゆる分野におけるスキルの高さは、徐々に失われていったのです。

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