ヤマザキマリと考える「情報の真偽を見極める力」 情報の数々を自ら判断する力を鍛える必要

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地球温暖化が語られる際、学術専門家が登場し、その論説を述べる姿を見ることがありますよね。科学者の言葉なら「絶対的に正しい」という前提で私たちは耳を傾けます。しかしそのドキュメンタリーでは、学術関係者たちが研究費を賄うために大手石油会社と手を組み、「二酸化炭素の排出は地球に害ではない」「地球温暖化は起きていない。気温上昇はそこまでではない」といったキャンペーンが仕掛けられた事実が指摘されていました。

さらに印象に残ったのは、テレビなどのメディアでもっともらしい言説を論じていたのが、シンクタンクに雇われた営業的な立場の人だったということです。専門家ではなく巨額の資金を動かすプロが気候変動を語っていたのですが、その態度たるや実に堂々としていて、アプローチ用に顕在化された知性には疑いを挟む余地などありません。

人々を信じさせる説得力の演出という意味では相当なプロフェッショナルです。嘘も真意も彼の言葉に掛かればさほど大した意味はなしません。洗練されたインテリジェンスを駆使しつつ毅然と世間を誘導できる人材は、日本の社会ではなかなかお目にかからないタイプかもしれません。

これとは対極に、温暖化という問題そのものが意図的に仕込まれたものであり、世に危惧を蔓延させることが有利になる権威者がいると捉えている研究者の発言を聞いたこともあります。ギリシャの哲学者ヘラクレイトスは“一致と不一致の対立は万物の父と母であり、有用である”などというようなことを既に紀元前5世紀の段階で唱えていましたが、温暖化に関しては私にとって情報の安直な解釈だけで収めることのできない、最も注意深さを要求される社会問題の一つとなっています。

誰かの利益のために発信されている情報

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どちらにせよ、人間の社会が資本主義というシステムのなかで稼働している以上、信憑性を掲げたいかなる推察や憶測も、誰かの利益のために情報として発信されているということは、基本原則として認識しておくべきだと思います。

"専門家"という人々の言葉を私たちは正しいと捉えがちですが、流布される情報の裏に万人のためではないお金が動いている可能性は十分にあるということも常に考えておくべきです。

科学分野の研究は、特に商売とつながりやすい世界だということもしっかり認識しておけば、日々耳に入ってくる情報に翻弄され過ぎずに済むのではないかと思います。

ヤマザキ マリ 漫画家・文筆家・画家

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やまざき まり / Mari Yamazaki

1967年東京都生まれ。漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。2010年『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。15年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。17年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ章受章。著書に『プリニウス』(新潮社、とり・みきと共著)、『国境のない生き方』(小学館新書)、『オリンピア・キュクロス』(集英社)など多数。

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