マンションだから安心とは言えぬ「水害」の怖さ 防災対策の見直し、管理組合の果たす役割とは?

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このほか、災害時の飲料水、非常食、また災害用のトイレや医薬品、懐中電灯、スマートフォンやラジオなどの電源等など、一般的な防災用品も当然ながら揃えておきたい。マンションの管理組合で用意するだけでなく、居住者それぞれが備えるべく、周知をしていくことも重要だ。

居住者への周知面では、バルコニーや排水口、排水溝の清掃の徹底を伝えていく必要もある。排水口や排水溝の清掃を怠ると、溜まったゴミが流れ出しマンションの排水機能に悪影響を及ぼしかねないからである。マンションの避難訓練や防災訓練を契機に、バルコニーの一斉清掃を行うのも有意義な取り組みとなるはずだ。

同時にバルコニーから水が浸入しないようサッシを閉め、クレセントで施錠するなどの個別にできる対策についてもアナウンスを図っておきたい。

「所有者・居住者名簿」作成を

災害時の安否確認において、大きな効力を発揮するのがマンションの所有者・居住者名簿の存在だ。氏名や性別、家族構成などの基本的な情報はもちろん、介護や支援が必要な方の有無、血液型やかかりつけの医療機関などの情報がわかるなど迅速な救出にもつながる。

マンションの管理水準を高めるべくはじまった管理計画認定制度においても、「管理組合がマンションの区分所有者等への平常時における連絡に加え、災害等の緊急時に迅速な対応を行うため、組合員名簿、居住者名簿を備えているとともに、1年に1回以上は内容の確認を行っていること」が認定基準の1項目として記載されている。

ところが個人情報保護法の観点から、所有者・居住者名簿の活用は難しいのが実情だ。直接的に利用ができる名簿を備えている管理組合はまだまだ少数ではないだろうか。

しかしマンションの防災という観点から考えると、災害マニュアルと共に名簿の果たす役割は大きい。災害時以外の利用は不可とし、保管場所と管理責任者を定める、1年毎の更新や開封確認など管理・運用ルールを徹底した上で早急に作成することを提案したい。

いきなり全居住者、全戸の理解を得るのは難しいかもしれない。プライバシーに配慮しつつ、水害をはじめとするマンションの防水対策の重要性を繰り返し伝えることが大切だ。

数戸からスタートし、将来的には全住戸の連絡先がわかる居住者・所有者名簿の作成を目指したい。その際はデータでの保存は避け、紙媒体を基本にする、ペットの有無なども記載できればなおいい。

これからも気候変動は続き、経験したことのない気象状況に遭遇する可能性は少なくない。過去の経験だけでなく、さまざまなリスクを想定し、管理組合として防災に取り組むことが住み慣れたマンション、暮らしの維持につながると言えるだろう。

長嶋 修 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長)

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ながしま おさむ / Osamu Nagashima

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。以降、さまざまな活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。主な著書に、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)、『「マイホームの常識」にだまされるな!知らないと損する新常識80』(朝日新聞出版)、『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)など。さくら事務所公式HPはこちら
 

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