伊藤さんは新卒で料理本を扱う出版社に入社。その後、ご主人の転勤で大阪へ。3年9カ月の専業主婦期間を経て東京に戻ってきた際、もう一度仕事をしたいと思い、職探しを始めた。そんな折、たまたま編集業務限定で契約社員を募集しているゼクシィ編集部に出会った。
「最初リクルートに入ったときには、周りの人が何百人もの前で普通にプレゼンテーションをしているのを見て、衝撃を受けました。自分は何もできないし、社会人よりも主婦の期間が長く、会社のこともよくわからない。しかも、ものすごく熱気が溢れる人たちだから、全然ついていけない。そんなところからのスタートでした」
長いブランクを経て契約社員として飛び込んだのが、バリバリ激アツ社員のひしめくリクルート。パワーポイントはおろか、社内メールシステムもまともに使いこなせない伊藤さんは、荒波のなかで溺れそうになる。そんな彼女がワラをもつかむ思いで手を伸ばした先には、何があったのだろう。
こうして「庶民派編集長」が生まれた
「とにかく自分の強みを探すのに必死でした。無い。無い。本当に無い。そんなとき、自分が専業主婦時代に『この料理の本は、もっとこういうふうに編集したら失敗しないで料理をつくれるのに』と感じていたことを思い出しました。主婦生活をしていたからこそ、買う側の観点で、もっと親切に、もっときめ細やかに編集できると感じたのです」
自分が主婦であったときの感覚を思い出しながら、受け手である顧客に徹底的に「愛」を注ぐ。いつしかそれが伊藤流の仕事の仕方になっていった。
「結婚式は、言わば自分の人生で露出度最高値のイベントです。そのときに、ビスチェから出る二の腕を1ミリでも細く見せるにはどうしたらいいだろうとか、式場の扉を開けて大勢の前にバーンと出て行ったときに、どうしたら優しく迎えてもらえるだろうとか、そういう最高の瞬間をほんのちょっとでもよくできないかと考えてきました」
バリバリキャリアでもなければ、成り上がりでもない。伊藤さんは自分にできることを懸命に探した。そして、徹底的に顧客の気持ちになることに心血を注いできた結果、いつしか庶民派編集長の任務を負うことになっていたのではないだろうか。
伊藤さんがゼクシィという船の舵をとる感覚をつかみ始めたのは、それからもう少し先のことになる。出産を経て仕事と家事の両立に押しつぶされそうになっていた頃。心身とも極限に達していたときに家庭で起きた、「ある事件」がきっかけだった。
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