この実験を経てわかったことは、やる気を失わせるには回数ではなく、シンプルにその人の仕事を無視して、徒労感を与えればいいということでした。半面、やる気を出させるには、その人の仕事を認め、ねぎらいの言葉をかけてあげればいいということでした。
たとえ自分が大好きでこだわりがある仕事だったとしても、相手にされず、徒労感を覚えてしまえば、人はやる気を失ってしまう。
反対に、さほど興味がなく、モチベーションが上がらなくても、やってみた結果を人からほめられれば、やる気というのは思いのほか、すくすくと育つ……なんとも人間は現金な生き物なのです。
先の会話でいえば、ジョギングが苦手な人も、第三者から「最近やせた?」とか「顔色がよくて健康的だね」などと言われれば、その気になってしまうというわけです。
つまり、手ごたえをどうやって作り出すかが大事であって、好きか嫌いかはさほど重要なことではないということです。
脳科学の研究で著名な東京大学の池谷裕二教授によれば、やる気のエンジンである淡蒼球(たんそうきゅう)を動かすには、「ご褒美を与える」ことが重要だそうです。
まさに、このほめるという行為はご褒美になるんですね。結局、脳の報酬系を働かせればよいということです。
人にほめてもらいたければ、FacebookのようなSNSに投稿してみるのも手です。「いいね」をほぼ必ずつけてもらえますし、応援の言葉ももらえます。
やってみて嫌だったらやめればいい
私事で恐縮ですが、私は今でこそ大学教員をしていますが、若いときはいろいろなバイトを経験しました。
その数、実に47種類! われながらよくやったなぁと思うのですが、一例を挙げると、写真売り、レストランの厨房、公園の売店、建築関係、家庭教師、寿司店、ガソリンスタンド、塾講師、産業廃棄物中間処理施設、訪問アンケート調査、会場設営、音響設備、オートセンター、コンビニ店員、ナレーション、カラオケボックス、通訳、水道設備、イベント会場設営などです。
私自身、たくさんのバイトを経験して痛感したことは、誰かにほめられたり、感謝されたりすると、やる気が出て、パフォーマンスが上がるということです。
ですから、好きか嫌いかはひとまずおいといて、“なんでも一所懸命やってみる!”という姿勢が大事だと思います。
一所懸命やるからこそ誰かがほめてくれたり感謝されたり、報酬系が働き、脳のやる気エンジンが回転していきます。そうすると、自然と楽しめるようになるから、人間というのは不思議な生き物です。
先に挙げた仕事の中で、私が唯一楽しいと感じることができなかったバイトが、訪問アンケート調査でした。法改正前だったので、いきなりアポなしで各家庭に訪ねていけたのですが、これが大変でした……。
アポなしですから、訪問先の方々にイヤな顔をされ、追い返されるのは当たり前。文句を言われることはあっても、誰からも感謝されず、ほめられるなんてことはありません。
そうすると、先の実験のように徒労感しか覚えず、“やる気”なんていつまでたっても起こりません。ですから、私は1日でやめました(笑)。やってみて、つらかったら、すぐやめてしまえばいいのです。
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