テレビ番組は「音」に注目するとより面白くなる訳 「タモリ倶楽部」の制作会社「ハウフルス」の流儀

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堀江氏の担当する「出没!アド街ック天国」は、毎回違う街を扱う番組だけに、その街のイメージや雰囲気に合った選曲を重視しているという。演出として常に心がけているのは、なにげなく聞こえてくる「街の音」を探すことだとも。

「私はイヤホンで音楽を聴きながら歩くということはしないんです。街行く人の会話とか、ノイズのようなものも含めて、つねに耳をすましています。この番組に必要なのは音楽だけではなくて、街のノイズもすごく大事なんです」(堀江氏)

例えば、紹介する店のドアを開ける音や、階段を上る音などを生かすことで、街全体の臨場感を表現できる。とはいえ、かつては番組の最後で、使用したBGMのセットリストを見せるという粋な演出をしていたこともあり(番組コンピレーションCDも発売された)、同番組におけるBGMの重要性は基本的に変わらない。

それを示す裏話を教えてくれた。街の取材で出会った女性を0.5秒ずつ計60組(現在は30組)登場させる番組の定番コーナー「コレクション」では、BGMにパティ・オースティンの『Kiss』(アルバム『Jukebox Dreams』所収)が使用されているが、以前はトム・ジョーンズの『If I Only Knew(恋はメキメキ)』が使われていた。

「実は、あの映像のテンポに合う曲が本当に見つからなくて、音効さんでも探しきれずに、私の先代の演出がそれこそ死ぬ気で探した結果、たまたま『Kiss』にたどり着いたのだそうです。なので、あのコーナーに使える曲はいまだ2曲しかないんですよ」(堀江氏)

「ケンミンSHOW」の肝は“方言”

一方、佐藤氏が担当する「秘密のケンミンSHOW極」には、毎回他の番組ではなかなか聞くことができない「音」がある。

「この番組の音のこだわりって何かなと改めて考えてみたら、まさに毎回取り上げる地域で出会う“ケンミン”たちの声、つまり方言なんじゃないかと」(佐藤氏)

名物コーナー「ヒミツのOSAKA」で聞かれるネイティブな関西弁はもとより、津軽弁や薩摩弁、沖縄ことばなど、その地域の歴史や文化が育んだ方言やなまりは、時にほほえましく、時に爆笑を誘う。血の通った文字どおりの「音声」をきっちりと拾い、自然に聞かせることが、同番組の変わらぬ面白さの肝なのだろう。

改めて、「音」に注目してハウフルス制作の番組を見てみると、その楽しさはきっと2倍、3倍になるはずだ。(鈴木健司)

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