稲盛和夫「常に謙虚」貫いた偉大なる思想家の足跡 「経営の神様」はジェントルマンであり俗人だった

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京セラ創業者 稲盛和夫
稲盛和夫さんの人生を振り返る(撮影:今井康一)

「稲盛さんが亡くなられたなんて。現実として捉えることができません。今も生きておられるようです」

こう話すのは、日本で100万部、中国では500万部を超えるベストセラー『生き方』(稲盛和夫著)を世に送り出した植木宣隆・サンマーク出版社長である。稲盛氏を師と仰ぎ、経営者を対象に稲盛氏が主宰していた私塾「盛和塾」で学ぶ。「稲盛経営者賞」を受賞した。

筆者は、稲盛氏、植木氏と旧知の仲という縁もあり、2007年6月、東京都内のホテルで開かれた、『生き方』(サンマーク出版)50万部突破を祝う出版記念パーティーで発起人の一人を務めた。当日は、堺屋太一氏や瀬戸内寂聴氏が作家らしく気の利いた祝辞を披露。さらに、同書は100万部を突破。2013年11月にも、同様のパーティーが催され、森下洋子氏がプリマを務める松山バレエ団(団長=清水哲太郎氏)が約1時間にわたり創作バレエを披露した。ちなみに、清水・森下夫妻も盛和塾の塾生だった。

華美ではなくシックなジェントルマンの出で立ち

松山バレエ団の演技を鑑賞する際、筆者は稲盛氏の臨席に座った。すると、香水をつけていたか否かは定かではないが、良い香りがした。左手の薬指には、シグネットリングと思われる大きな指輪が。私が間近で見た稲盛氏は、いつもスキがないほど整った身なりだった。華美ではなくシックなジェントルマンの出で立ちである。

ジェントルマンと見られる人でも口を開けば、気取っていたり、嫌味に聞こえたりする人がいる。日本では「格好つけてるね」「しょっちゃって」「成金だね」と揶揄される鼻持ちならないタイプである。稲盛氏には、そのような雰囲気がかけらも感じられなかった。事務的ではなく、情感を込めながらも温厚な話し方で、自慢話を自制しているように見えた。

(平成の)「経営の神様と言われていますね」と振ると、「いやいや神様だなんて。俗人も俗人ですよ」と照れていた。その照れは本物と思われる照れである。実に良い顔をしていた。ときどき、稲盛氏は心を開いた表情を見せる。

対照的に、インタビューで、やや答えがたい質問を投げかけたときは、話すのをいったんやめ、目を閉じて瞑想する禅僧のような表情になる。人なつこさと真剣さ、これら2つの顔は、稲盛氏が経営を行ううえで最も重視している経営哲学「京セラ フィロソフィー」を社員の心に浸透させるうえで奏功している。

俗人の姿は、日常の行動に表れている。

稲盛氏は、餃子、ハンバーガー、牛丼など、いわゆるB級グルメが大好物だ。それらのチェーン店に足を運ぶこともめずらしくない。東京・有楽町駅のガード下にある吉野家のような、どんどんお客さんが入ってくる繁盛店を好む。どうも、味だけではなく、あの庶民的活気と短時間で食事が済ませられる点もお気に入りだったようである。

「私、丼物が好きなんです。ワイシャツをめくり上げて、丼物をかき込むたびに、創業の頃を思い出し、よし、やるぞ、と士気が高まってきます」

次ページ言葉、行動に含まれた「経営の精神」
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