都会も地方も「似ている建物」で溢れている危機感 世界イチ住みたい街に携わる専門家の提言
ただし、地方の起業家を支援すると言っても、ここ数年の急速なテクノロジーの進化やコロナ禍の影響による環境変化もあり、従来ある起業ノウハウを教えるだけでは成り立たなくなっているのも事実である。
だからこそ、先の見えない不透明な時代の事業開発支援において、まずは起業家を支えるコミュニティーづくりが優先されるべきであろう。
起業家というと、まだ世に出ていない新しいテクノロジーや商品を考え出す人のことを想像しがちである。もちろん、新たな事業を起こす人材も必要だが、既存の事業を大きくするための人材も必要だということも忘れてはならない。
例えば、これから注目すべきなのは地方に今なお残る伝統産業の継承やイノベーションである。
質の高い日本の伝統産業を支援
日本の伝統産業は残念ながら、これまでの失われた30年とテクノロジーの発展で急激に減少している。しかし、地方には生き残ってきた企業も複数存在している。
そしてそれらの多くは、海外の量産工場ではまねできない、クオリティーの高い技術や工法を持っている。その伝統技術を今まで交わることのなかった別分野の手法や、デザインと掛け合わせることができれば、新たな革新的技術や商品が生まれていく。
例えば、伝統工芸品を代々作ってきた職人とアーティストや研究者とのコラボレーションにより、今まで誰も思いつかなかった新しい商品の作り方やデザインが生まれたり、その商品自体の概念や使い方などが進化する可能性がある。
それが突拍子もないアイデアだったとしても、それを否定せずに周りがその挑戦の支援をすることによってイノベーションが起きる確率はぐんと上がる。
一例ではあるが、筆者が2020年から関わっている富山県南砺(なんと)市井波(いなみ)地域では、コロナ禍にもかかわらず、まちの古民家を改修し数件の町宿を経営したり、木彫師とのコラボで作った伝統的なモチーフを模(かたど)った木型で製造したクッキーが3カ月待ちのヒット商品となっている。
さらに木彫りで出る木っ端を使った燻製ポテトチップスや、オリジナルの木彫りグッズなども販売し、新たな雇用を生んで、観光客向けとして“外貨”を稼いでいる。
このように古くから残る地元の地形や文化を生かしたイノベーティブな取り組みは、行政によるその分野に的を絞った支援があれば、さらに魅力を増すことができるはずである。
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