この子はちょっと頭でっかちで、大人びた子供であった。
いつも、悲しくても辛くても、ぐっと我慢する子だった。
今まで一度も駄々をこねたことがない。ダメだよ、と言うと我慢をする。
辛いなら、泣けばいい、と言ったこともある。
でも、息子が泣いたのは、これまでわずかに1、2回。悲しいこともあっただろうに、 涙そのものをぼくに見せたことがない。
だから、心配していたのだ。しかし、今日、身長とか毛髪のことで悩みを抱えていたことがわかり、ぼくはにわかに嬉しくなった。
これはとっても普通なことだ。
「でも、パパ。もひとつ、悩んでいることがあるんだよ」
「まだ、あるのか?」
「うん、昨日、お昼にチャーハンを作って食べたんだけど、まったくおいしくなかった。それで、よければ、チャーハンのおいしい作り方、教えて貰いたい」
「え? お安い御用だよ。じゃあ、今からやるか」
「うん」
ということで、ぼくらはそのままキッチンに行き、ぼくは息子に世界一おいしいチャーハンの作り方を教えてやることになった。
世界一おいしいチャーハンの作り方
ぼくらは冷蔵庫を覗いて材料を一緒に探した。
肉が切れていたけれど、冷凍庫に海老があった。野菜室にネギがあった。玉ねぎやニンニク、卵などをずらっと並べた。
息子が拵えたチャーハンの手順を確認したら、塩加減、味付けがイマイチだった。
なるほど、それじゃあ、おいしくないのは当たり前だ。大事なのは塩加減、人生と一緒で、塩を振るタイミングが大事なんだ。
ガスコンロの火をつけ、フライパンを置き、油をひき、まず半熟の卵焼きを作って脇に置いた。
油を多めに足し、潰したニンニクと唐辛子に香りを移した。
背ワタを除去した海老を細切れにし、小さくカットした玉ねぎ、千切りのネギと一緒にフライパンに放り込んだ。
火が通り、エビが赤くなったら、ご飯を入れ、パラパラになるまで炒めたところで、ニョクマム、醤油、昆布茶、鶏ガラスープのパウダー、塩胡椒を入れて味付けをした。
火加減を見ながら上手に混ぜ、置いていた卵を戻して強火にし、ごま油を少々絡めて火を止めた。お皿に盛って完成である。
昨日の残りの枝豆があったので、色味として、添えてみた。スプーンで掬って食べた息子が満面の笑みを浮かべ、うまい、と唸った。
順調に育っているようだ。めでたし。
前々回:辻仁成「息子と2人で過ごしたクリスマス・イブ」
前回:辻仁成「世界一の手作り肉まんを息子と食べた日」
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