実はうちの子、最近、肉嫌いになり、魚ばかり食べている。頭でっかちなので、肉食であることへの抵抗を感じているようだ。
背が伸びたいと言いながらも、ダイエットをしたり、偏食したり……言ってる意味がわからない。
「あと、5cmは伸びたい」
「贅沢な悩みだ。じゃあ、パパはどうなるんだよ」
「パパはもう還暦超えなんだから、別に小さくっても構わないでしょ?」
カッチーーン。
「あとね、抜け毛がすごいんだ。心配で眠れない。なんか、後頭部がすーすーしてる気がする」
ぼくは立ち上がり、頭を垂れた息子の頭をチェックするが、ぼくよりふさふさだった。ってか、息子が何に悩んでいるのか、ほんとうに、わからない。
「問題ないけど、普通じゃないの?」
「いや、問題あるよ。トマとかロマンに毛が薄くなったって言われた」
「バカじゃないの?金髪の子たちは地肌と髪の毛が同系色だから、実際はお前よりもっと薄いんだよ。君は黒髪で剛毛だから地肌がくっきり見えてしまう。そう感じているだけで、まったく気にする必要なし」
「トルコに行きたいんだ」
「トルコ? なんで?」
「植毛の技術がすごいらしい」
高校生の頃の自分と同じような悩み
ぼくは笑い出した。
というのも、自分が高校生の頃、同じような悩みを抱えていたからだった。
それで、ぼくは頭髪の薄い父親に食ってかかって、遺伝したらパパのせいだからね、と文句を言っていたのである。
若かった頃の自分にとって、身長とか髪型は進学や成績よりも重要案件であった。
息子を仕事場のソファに座らせ、その時のことを話して聞かせた。
「見てみろ、パパの髪の毛、50だけど、まだ染めてないし、抜けてもいない。確かに、白髪がちょろっと増えてきたけど、でも、ぜんぜん大丈夫だろ?」
「パパは歳だからもう逃げきれる。パパのことなんか誰も見てないし」
カッチーーン。
「僕はこれから恋愛をしなきゃならないのに、背が足りなかったり、髪の毛が薄いと死活問題じゃない? これ、切実なんだよ」
「バカか。ご先祖様に申し訳ないこと言うな。ジジが草葉の陰で悲しんでるぞ」
息子はシュンとうなだれてしまった。
でも、思春期特有の悩みだから、これでいいのだ、とぼくは思った。
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