「旧来型の戦闘」で冷笑されるロシア軍の瀬戸際 ウクライナと米欧の「連合国」体制が押し破るか

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ウクライナ軍情報部の発表によると、ロシア軍の主力ミサイルであるカリブル型巡航ミサイルの現在の保有数は「非常に少なく」、短距離巡航ミサイル「イスカンデルM」の場合、残っているのは保有数の当初の20%しかないという。しかも西側制裁のため、ロシアでのミサイル生産能力は大幅に減っている。西側からの輸入精密部品が多く使われているからだ。

火砲の弾薬についても、専門家からはすでに2022年内には極めて不足すると指摘されている。同軍事筋は「新たな兵員集めもうまくいっていない。ロシアの戦力を分析すると、年内で継戦能力が失われるだろう」と指摘する。

しかしプーチン政権としては、ウクライナに主導権を奪われたまま、侵攻が失敗する事態を受け入れるわけにはいかない。強気なプーチン氏は、受け身になりながらも何とか粘って情勢逆転のチャンスを狙うはずだ。欧州へのガス供給を絞って、米欧間の離反も狙うとみられる。

長期戦への世論形成を急ぐロシア

そのためには国民に長期戦が必要な理由を説明し、高い戦争支持を引き続き保つ必要がある。これを目的にクレムリンが最近、世論形成のために行っているのが、戦争の相手はウクライナだけではなく、NATO全体だとのプロパガンダだ。一日中、国営テレビで放送されるトークショーでこれを宣伝している。NATO相手の戦争だから長引くのは仕方ないという理屈だ。国民に覚悟を求める狙いだ。

だが、ショイグ国防相は2022年8月24日、ロシアの進軍が遅れているのは民間人の犠牲を避けるための意図的な選択だと説明した。この苦しい弁解は、西側諸国ばかりか国内でも失笑を買った。プーチン政権を支えてきた保守民族派からもクレムリン批判の声が出始めた。

このためショイグ発言の翌日、プーチン氏はあわてて保守派向けにダメージ・コントロールの手を打った。ロシア軍の総定員を2023年1月から約14万人増やして、約203万9700人とする大統領令に署名したのだ。クレムリンが具体的な増強策を打っていることを示す狙いだ。

しかし、この定員増が実際に兵力強化につながるとの見方は少数派だ。ロシアの軍事専門家であるルスラン・レビエフ氏は「徴兵逃れや脱走で、今ロシア軍は前例のない規模の定員割れが起きている。大統領の増員令が状況を変えるとは思えない」と冷ややかにみている。

どこを見ても打開の糸口が見当たらないプーチン政権。その中で起きた南部ザポリージャ原子力発電所での砲撃事件は、クレムリンにとって米欧から何らかの譲歩を引き出すための「瀬戸際作戦」とみられる。

しかし、原発事故という恐怖をちらつかせるロシアに対し、米欧は冷ややかだ。放射線が仮にポーランド領内で感知されればNATOへの攻撃とみなすとの強硬姿勢で対応している。侵攻作戦のみならず、原発危機を演出した脅迫戦術でもロシアは行き詰まっている。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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