強力な反攻作戦で追い詰められるプーチン大統領 ウクライナ、全土奪還戦略でアメリカと合意

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2022年9月14日、開戦以降占領されていたウクライナ東部イジュムをウクライナ軍が奪還、現地を訪れたゼンレンスキー大統領(写真・AFP=時事)

2022年8月29日に始まったウクライナ軍の反攻作戦は、開始からわずか2週間で西側専門家も驚くスピードで領土奪還を進めている。ロシア軍を翻弄するウクライナ軍の巧妙な戦略の前に完全に、戦局の主導権を奪われたプーチン政権はいよいよ追い込まれている。

この背後には、ウクライナと米欧が「連合国体制」をがっちり組んだ強力な軍事支援がある。ゼレンスキー政権は米英との間で戦争終結に向けた大戦略でも一致し、今後の攻勢に自信を深めている。さらに米欧は反攻作戦開始前から、ロシア敗北を前提に「戦後処理」の検討も密かに始めている。

ウクライナ軍の陽動作戦

このスピード進撃を象徴するのが、ハリコフ州の交通要衝イジュムの奪還だ。イジュムはロシアの軍事集積地のベルゴロドから南下してウクライナに入り、東部ドンバス地方に至る補給路の要所。ロシア軍が2022年3月に制圧して以来、ドンバスへの攻撃の拠点になっていた。

2022年9月10日にウクライナ部隊のイジュム到達が明らかになったが、翌11日にはゼレンスキー大統領が奪取を宣言した。ロシア軍は陥落直前に、武器などを置いたまま慌てて逃げており、2022年2月末の侵攻開始以来、最も屈辱的な敗走となった。

この奪還劇の裏には、今回ウクライナ軍による巧みな陽動作戦があった。反攻作戦で当初、焦点になったのは南部ヘルソンだった。ロシア軍はドニエプル川西岸でウクライナ軍により半ば包囲された状態で、いつ掃討作戦が始まるのかが注目されていた。

そのような中、2022年8月14日にウクライナ政府がヘルソンの住民に対し避難を要請した。これを知ったロシア軍は「ヘルソンでの掃討作戦が近い」と焦り、本来ドンバス地方攻略へ投入する予定だったイジュムの部隊をヘルソンに移動させた。この結果、イジュムには小規模の非正規部隊が残るのみとなった。これを見計らってウクライナ軍は奇襲の形でイジュムを制圧した。「住民避難要請」はロシア軍を誘い出す、完全な罠であった。

ウクライナの軍事専門家は、このロシア軍の狼狽ぶりについて、2022年8月初めにクリミア半島のロシア軍基地に行ったウクライナによるパルチザン攻撃が影響したと指摘する。不意を突かれたことで、ロシア軍はその後、冷静な判断力を失ったという。

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