強力な反攻作戦で追い詰められるプーチン大統領 ウクライナ、全土奪還戦略でアメリカと合意

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「民主的に選ばれたウクライナの大統領が戦争の処理について決めなくてはならない。アメリカは、ウクライナが交渉であれ戦場であれ、領土の一体性を回復することを支持している。これがアメリカの主要な関心事だ」と述べた。さらに「アメリカの仕事はウクライナの戦場での力を強化することであり、戦闘において支援することだ」と強調した。

つまり、ブリンケン氏がゼレンスキー大統領との会談で合意したのは、侵攻されたウクライナの今後の選択をアメリカ政府が全面的に尊重するということである。全領土回復のため戦争でロシア軍を敗退に追い込むというのであればその選択を支持するし、戦争の途中で交渉を開始するならば、それも支持するということだ。いずれにしても停戦交渉に入るならば、ウクライナが出す条件通りにすべきとの立場だ。

戦後処理を水面下で検討開始

このバイデン政権との合意をゼレンスキー大統領は非常に喜んだという。これに気をよくした大統領はさっそくCNNテレビのインタビューで、ロシアに対し「ロシアがウクライナから完全に出ていくまでは何も話すことはない」と非常に強硬な立場を表明した。つまり、今回の侵攻が始まった2022年2月24日以前の状態ではなく、クリミアを併合した2014年年以前の国境までロシアが完全に撤退することが話し合いの条件だということだ。

つまりゼレンスキー政権が設定した和平交渉開始のマジックナンバーは「1991」だ。つまり旧ソ連から独立した1991年にさかのぼってウクライナ領土を原状回復することをロシアに要求したことを意味する。ゼレンスキー大統領は先述した国際会議で、2023年春までの反攻作戦が非常に重要だと述べ、短期決戦の構えでロシアを軍事的に追い詰めるとの意志を明確にした。

プーチン政権に対する米欧の厳しく非妥協的な姿勢を象徴するのがNATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長の、2022年9月9日の発言だ。ウクライナへの連合国による武器支援問題を協議するため、ドイツのラムシュタイン空軍基地で行われた会議で「もしロシアが戦闘をやめたら平和が来るだろう。もしウクライナが戦闘をやめたら、ウクライナは独立国としての存在をやめるだろう。われわれは、ウクライナと自分たちのために今の路線を継続する必要がある」。

この継戦戦略の一方で、米欧が水面下で検討を始めているのが「戦後処理」問題だ。近い将来、具体的な検討課題として浮上してくるのが、ウクライナへのロシアの賠償問題やプーチン大統領の戦争犯罪を問う国際法廷の設置問題だ。ロシアが国連安保理常任理事国である以上、これらの問題が国連で正式に協議されるかは予断を許さないが、議論自体は水面下で関係国間で始まっている。

「戦後処理」問題で一番の焦点は、プーチン氏の扱いだ。ゼレンスキー大統領はこの問題でプーチン氏の排除を求める立場を明確にしており、米欧も「ポスト・プーチン」のロシアをめぐり検討している。戦後処理と言えば、アメリカが1941年の太平洋戦争の開戦から2年後には対日戦後処理問題の検討を始めていたことが有名だ。今回の米欧によるロシアに対する検討開始もそれとよく似た展開だ。

この戦後処理問題の結論が出るのはまだ先の話だろうが、今後のプーチン政権との関係を考える時、日本も考慮に入れるべき要素だろう。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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