強力な反攻作戦で追い詰められるプーチン大統領 ウクライナ、全土奪還戦略でアメリカと合意

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一方、主導権を握ったウクライナ軍は、反攻作戦の今後の戦略の全容を明らかにしていない。今後もロシア軍の意表を突くような陽動作戦を展開する可能性がある。しかし、イジュム奪還を踏まえると、方面ごとに異なる戦略で奪還作戦を進めると筆者はみる。北東のハリコフ州全域を奪還したことで、当面は東部のドンバス地方(ルガンスク、ドネツク両州)で奪還作戦を急ぐとみられる。

2014年のクリミア併合時に、親ロ派分離地域としてロシアがドンバス地方に設置した「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」は、ウクライナからすれば8年間に及ぶ屈辱のシンボルだ。それだけにポドリャク顧問はドンバス奪還が「今や中心的課題であり、奪還できればロシア軍は戦意を喪失する」と述べた。

南部ヘルソンでは、すでにロシア軍部隊をほぼ包囲しており、制圧作戦をすぐに開始することはないとみられる。ロシア軍が弾薬・食料が尽きて、降伏あるいは逃亡するのを待つ作戦だろう。事実、ヘルソンの一部ロシア部隊から、戦争捕虜の人道的扱いを決めたジュネーブ条約を守る条件で、投降の用意があるとウクライナ軍に伝えてきたとの情報もあるとロシアの軍事専門家が指摘する。

米欧との連携深めるウクライナ

勢いに乗り始めたウクライナには、さらに強い追い風が吹いている。米英をはじめとするウクライナ支援の枠組みである連合国側との連携緊密化だ。公表されていないが、反攻作戦開始直前、アメリカとの間でウクライナは高官協議を開催、作戦の概要について調整を行った。

アメリカ側からはジェイコブ・サリバン大統領補佐官(安全保障問題担当)、アメリカ軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長が、ウクライナ側からはアンドリー・イェルマーク大統領府長官とヴァレリー・ザルジニー総司令官が参加した。ここで戦争の進め方について合意できた。今後も両国は、ロイド・オースティン国防長官とオレクシー・レズニコフ国防相の間でも、今後適宜、意見や情報を交換するという。

さらに2022年9月8日には、アメリカのブリンケン国務長官が事前の予告なしにキーウ入りして、ゼレンスキー大統領と会談した。ここで、両国は戦争をめぐる大戦略ですり合わせができたといわれる。合意内容は公表されていないが、同じ時期にキーウで開催されたウクライナ情勢に関する国際会議での議論が合意内容を反映したものになっている。

最も注目されるのは会議にオンライン参加したサリバン大統領補佐官の発言だ。「ウクライナはこれ以上戦争を続けないで、占領された領土をめぐってはロシアと交渉すべきだ」とのアメリカのキッシンジャー元国務長官の提案についてどう思うかとの質問に対し、サリバン氏はこの提案を明確に否定した。

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