最近、Mさんは念願だった色打ち掛け姿での夫婦写真を撮りました。いつかできるといいな、と思っていたことの1つです。美しい紅葉とともに、2人で笑顔で収まった写真は今、リビングのいちばんいい場所に飾ってあります。
そしてさらに、Mさんには新たな夢があります。
それは、自分が病を得て、死を強く意識する体験を経て学んだこと、感じたことを子どもたちに伝える教育をしたいというものです。
現在の学校教育では、「お金のこと」と「人生のこと」がほとんど教えられていないのです。この2つは生きるうえで最も大切なことなのに、子どもたちは学ぶ機会もないままに社会人になっていきます。
人生には報われないこともたくさんあること。うまくいかなかったら、その状況を柔軟に受け入れ、どう対応していくべきか考える力。これらを伝えることが、Mさんのこれからの人生で、自分しかできない、やっていくべき大切な仕事だと思っています。
病気が気づかせてくれる
「がんになってよかったとはとても言えない。しかし、病気にならなければ気づけないことがたくさんあった」
これは、がんという病気を体験した多くの方から私が聞く言葉です。
私は、がん体験者の方々が語られたことから、たくさんの気づきをいただきました。そのうちの1つが、「死を意識することで、今日1日を大切に生きるようになる」というものです。がんを体験すると、それまで次の日がやってくるのが当たり前だと思っていたのが、当たり前ではなくなるのです。そのことについてお話ししてみたいと思います。
最近、「人生100年時代」という言葉をよく耳にします。現代に生きる人の多くは、長生きできることを当然だと思うようになりました。
大きな病気などを経験したことがなければ、今日と同じような明日や明後日が当然のようにやってくる、そしてこれから自分の人生は10年、20年、30年と当たり前のように続いていくと考えます。
しかし、人生100年時代という言葉の副作用もあるように思います。当たり前のように毎日がやってくると思ってなんとなく過ごしていたら、「気づいたら10年経ってしまったな」などと過去を振り返ることになります。
多くの人が月日の過ぎ去る速さに驚き、このような言葉を口にするのではないでしょうか。
誰でも、「あの人と会いたい」「大切な友人に感謝の気持ちを伝えたい」「あの映画を見たい」「あのコンサートに行きたい」など、いろんなやりたいことがあります。
しかし、多くの人はこのやりたいことを先延ばしにしてしまいがちです。当たり前のように明日も1カ月後も1年後も変わらない毎日がやってくると思っていれば、「明日やればいいや」「そのうちやろう」「この仕事が一段落したらやろう」「定年後の楽しみにとっておこう」と、ついつい先延ばしにしてしまいます。
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