「不倫」した人は、公に罰せられるべき? 著名人の不倫報道という「リンチ」

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アメリカの大手世論調査機関Pew Research Centerの国際比較調査(2013年)では、浮気を道徳的に許されると考えるかどうかに関する、国別のデータをとっています。これを見ると、フランスの許容度の高さが際立っています。アメリカが保守的に見えるのは、実際に中西部・南部など保守的な地域があることと、こうしたことがあるとすぐに離婚するからというのが一因でしょう。

最も高いフランスで40%、日本でも14%が回答した「道徳の問題ではない」については、より厳しく「犯罪だ」と考えているのか、そもそも「問題ではない」と考えているのか、ここではわかりません。ですが、「道徳的に許される」とする国で、「道徳の問題ではない」とする回答が多いことから、ここでは、許容的な態度として回答した人が多いと解釈すべきではないかと考えました。

日本は多少の不倫があっても、形式的に婚姻が維持されてしまうために、逆に許容度が高いように見えるのかもしれません。したがって、日本の「許されない」69%を、高いとみるか、意外と低いとみるかは、意見の分かれるところでしょう。

「不倫で社会的制裁」は正しいのか?

不貞行為は、民法では慰謝料請求の材料となります。一方、刑法からみると、性的自己決定権を尊重する立場から考えれば、当事者同士の合意があったかどうかのみがその性交渉を正当化するのであって、法的な婚姻関係の内か外かが重要なのではないはずです。したがって本来、夫婦間でも強姦は立件されるべきであり、不倫は逆に公的に非難されるべきことではないと考える必要があるのではないでしょうか。

当然ですが、不倫をよいことだと言いたいのではありません。「男に浮気はつきものだから」といった、オヤジの酒飲み話のようなものに同調したいのでもありません。これは、夫婦や当事者間で解決されるべき問題で、社会的制裁を含めて、他者が安易に介入すべきことではないはずだと言いたいのです。

不倫に対する批判が、2周前の旧態依然たる男性たちにのみ向けられるのなら、賛成できるかもしれません。しかし、ことはそれで済む問題ではありません。性的排他性を信じるかどうかは、個人の性観念の問題です。そして個人の性観念や性的プライバシーを基に、公職を追われるようなプレッシャーがかけられるとしたら、これは由々しき事態であるはずです。どこかのアナウンサーが、誰かといるところを写真に撮られたから、どうのこうのといった……。

もちろん、お互いに結婚相手との関係のみに拘束し合って生きる、という生き方は、これからも尊重されてよいのです。問題なのは、それを他人に向かって標準として押しつける態度です。性に関する考え方の多様性を認め合い、お互いがその違いを尊重する、ということがないかぎり、無用な社会的制裁(リンチ)が繰り返されてしまうのではないでしょうか?

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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