また、民間の衛星画像会社であるマクサー・テクノロジーズが情報提供を行い、ウクライナ軍の活動をサポートしていることも、民間への技術普及の結果として位置づけられよう。さらに、国内外の専門家を中心とする民間人が公開された政府情報やSNS、衛星情報等を丹念に分析し(OSINT)、その結果をマスメディアやSNS等をつうじて広く民間に発信することで、戦争の認知枠組みの形成に重要な役割を果たしている。
このことは、戦況とその惨状を広く知らしめることで対ロシア世論を形成する後押しにもなっており、戦争をめぐる正義の語られ方と、民間における戦場把握能力の向上が強く関連づけられるようになっていることを示している。
2014年のクリミア危機以来、ロシアによるハイブリッド戦争の遂行に焦点があてられるようになっているが、今回の戦争でも、ロシアによる高度な情報戦やサイバー戦を交えた狡猾な戦争遂行が警戒された。しかし、戦争の経過とともにあらわれたのはむしろ、技術の普及によって政府が戦争への介入主体や情報へのコントロールを失う側面のほうだったのである。
民間の戦争参加をいかに管理するかという問題
新興技術の軍民領域を問わない普及が不可逆の流れであるとすれば、こうした変化は今後も世界に継続的な影響を与えるものとなりうるだろう。それは戦場におけるケースバイケースの変化以上のものである。もちろん、新興技術が軍民の境界をまたいで転用されることの諸問題はすでにいろいろと論じられてきているが、そのうえでさらに問題となるのは、民間主体、特に戦争の当事者ではない海外の主体、ときに個人が、直接的に戦場に影響を与えつつあるということである。
技術革新の話から離れれば、戦争当事者によるこのような民間の力の取り込みは、とりわけ2003年のイラク戦争以降注目を浴びるようになった民間軍事会社(PMC)の問題と、似たような構造をとっている部分もある。すなわち、国家が民間に所在する「軍事力」を積極的に利用すること、その副作用として国家がそれを管理できなくなることの問題である。
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