奇跡を起こす人が一瞬のひらめきに頼ってない訳 “没頭すること"が新たな価値創造につながる

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創造性の10年ルールは人間のあらゆる取り組みにおいて見受けられる。66人の詩人を対象としたカーネギーメロン大学のウィッシュボウの研究によると、全体の80パーセントが、もっとも創造的な作品の執筆に取りかかる前に10年以上の持続的な準備を要していた。著名な科学者たちを徹底的に研究したアリゾナ大学の心理学者アン・ローは、科学的創造性とは「勤勉な取り組みによる機能」であると結論づけている。

予測不能に上昇し続ける人間のパフォーマンス

ビートルズも10年間にわたる集中的なコラボレーションを経て、ようやく中期と言われる時期に入った。20世紀でもっとも革新的なポップスアルバムと言える『ラバー・ソウル』、『リボルバー』、『サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』が生まれたのはこの時期だ。

やはり創造性のひらめき理論の見本とされることの多い芸術家、ミケランジェロが述べているとおりだ。「これほど熟達するまでにどれほど熱心に取り組まねばならなかったか、人びとが知ったなら、さほどすばらしいとは思ってくれまい」。

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創造性が芸術表現ではなく技術革新で発揮されると、ささやかながら非常に強力な相互作用が生み出されている。目的性訓練が個人を変え、同時に個人を変える手段を変化させているのだ。第一段階では、専門家が目的性訓練をおこない、結果として新たな技術を生み出す。第二段階ではそのほかの人間がこれらのイノベーションを手に入れて訓練の効果を高め、それが第三段階の新たなイノベーションにつながる、等々。

13世紀には、数学を習得するには30〜40年かかると考えられていた。現在ではほぼすべての学生が解析学を習得している。だが、それは人類がかしこくなったからではない。数学の手法と教育が洗練されたからだ。同じように、サッカーと卓球の水準も上がりつつある。その原因の少なくとも一部は、技術が向上しつつあるからだ。すでに見てきたように、トレーニングシステムも向上しつつある。

このすべてが、動かしがたい一つの結論につながる。複雑な課題における人間のパフォーマンスは、かなり将来まで上向きの軌道をたどり続けるし、そこにときおり混じるイノベーションは予期せぬものであるだけでなく、予測不能でもある。

マシュー・サイド コラムニスト、ライター

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ましゅー・さいど / Matthew Syed

1970年生まれ。イギリス『タイムズ』紙の第1級コラムニスト、ライター。オックスフォード大学哲学政治経済学部(PPE)を首席で卒業後、卓球選手として活躍し10年近くイングランド1位の座を守った。英国放送協会(BBC)「ニュースナイト」のほか、CNNインターナショナルやBBCワールドサービスでリポーターやコメンテーターなども務める。

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