パチンコ業界で「キャッシュレス」進まぬ複雑背景 業界独自の「パチンコペイ」構想も浮上している

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PayPayも「課題が複数にまたがっていて、一概に理由は言えないが、現在(パチンコホールへの)導入に応じられる見込みは立っていない」という。

キャッシュレス業界関係者は「パチンコホールのお金がどこに流れていくのか、調べることは難しい。キャッシュレス各社はこの点を懸念しているのではないか」と語る。

業界で浮上する「パチンコペイ」構想

また、仮にキャッシュレス事業者を口説き落とせたとしても、決済金額の3%程度にのぼることもある決済手数料に、パチンコホールの収益力が耐えられなさそうだ。

パチンコホール運営は景品の仕入れに莫大なコストがかかる。そのため、売上高利益率は最大手のマルハンで0.3%、2番手のダイナムでも1.2%と極めて低い。あるホール大手の幹部は「キャッシュレスについては期待したいところだが、その手数料がホールの実入りにはあまりに重い負担となってしまう。これをどう解決するのか」と指摘する。

そこで業界から浮上しつつあるのが「パチンコペイ」とでも言うべき、業界発のキャッシュレスサービス構想だ。パチンコの周辺機器メーカー大手・マースエンジニアリングが2020年、キャッシュレス決済などの区分で「マースペイ」という商標をすでに登録済み。ほかにも、関係企業が水面下でキャッシュレス決済システムの検討・研究を進めている。

ただ、パチンコペイ構想には行政との交渉が待ち構えている。というのも、2019年にカジノ誘致がきっかけで閣議決定された「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」の中で、当時約850店舗のパチンコホールに導入されていたデビットカード決済のシステムを撤去する方針が掲げられたのだ。

預金残高からお金を引き落とすデビットカードすら認められなければ、それに相当するキャッシュレス決済を開発したところで、警察庁が認めるかどうかは怪しい。「デビットカードの決済システムを撤去する計画が策定された当時は業界として勉強不足で、『デビットカードなんて全然普及してないから要らないよね』と、ろくに反発もしなかった」(前出の業界関係者)。

警察庁にパチンコペイ構想を認めさせるには結局、依存症対策など産業の健全化に資する画期的なシステムの提示などが欠かせない。あるパチンコ業界の幹部は「国を挙げてキャッシュレスを推進しているのに、なぜパチンコだけ紙幣を使っていることが問題視されないのか」と嘆く。

さらに、「監督する警察庁ではなく、経産省など経済系の団体・省庁に掛け合うことで、パチンコ業界のキャッシュレス導入を後押ししてもらえないか」と、ロビー活動の軌道修正に言及する業界関係者も現れ始めた。

決死のロビー活動が実ったとしても、今度は「パチンコペイ」をSuicaやPayPayなどの激しい競争に割って入らせ、非パチンコユーザーにまで普及させるフェーズが待ち構える。パチンコ業界のキャッシュレス化は、これ以上にない難路となりそうだ。

森田 宗一郎 東洋経済 記者

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もりた そういちろう / Soichiro Morita

2018年4月、東洋経済新報社入社。ITや広告・マーケ、コンサル、エンタメ産業などを担当。過去の担当特集は「アニメ 熱狂のカラクリ」「氾濫するPR」「激動の出版」「パチンコ下克上」など。

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