「トヨタ生産方式」は、ほぼ誤解されている 企業活動の失敗は8~9割が自業自得だ

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──その最適はどう決めますか。

えいや、でいいのです。実力が上がってくると持つ量を減らしていってもできるようになる。理論値なんてありえなくて、君たちが怖くないと思う分だけ持て、と。その代わり物理的に持てんほど持つな、倉庫を新たに借りないかんほど持つな、とタガをはめている。見える化できたら、何でこれは3日分いるのだ、ということをやっていくと面白いくらいに在庫は減っていく。

──そうはいっても急に300個の注文が入れば、さすがに待ってもらうしかないです。

どうして300個いるのだろうと考える。建設資材の場合、ビルの10階分を一度に注文するから300個になる。ビルは1階しかできていないのになぜ10階分を注文するかというと客が信用していないから。

──客のところに行って、明日いる30個を納めて、この先必要な270個の納期にコミットすれば、300個の注文はなくなる。

ただし、客はすなおにうんと言ってはくれませんよ。ちゃんと30個ずつ必要なときに持ってきてくれるかお客も怖いのだから。最初は死ぬ気で作って300個納入してから、お客のところに行って、「まだ使っていないんですね」「まだ使っていないんですね」と言って説得するしかない。

──経営改善の処方箋を書くことができても、その実行は非常に難しい。現場やホワイトカラーの反発があることも多い。

ほとんどです。個人商店は別にして上場企業やそれに準じる会社はやっぱりセクショナリズムがある。

今日は関東近郊を地盤にした外食チェーンのコンサルに行っていた。店のオペレーションを改善するために工場を変えるといいことがわかった。ただ、そうすると工場側で10円コストが増える。けど、お店では50円コストが減らせる。

工場の責任者が「やる」と言うのは難しい。社長に、「お店も工場も社長はあなた。あなたが『やれ』と言えばやるわけですよね」と言ったら「やれ」となった。

「冗談のようなことがまかり通る」大企業

──部分最適を追求する結果、全体最適が犠牲になっている。全体最適になっていないことを明らかにすれば、変えられるのでは。

300人の規模の企業でも、全体不最適を招いている部分最適を変えろとは社長以外言えない。

──大企業だと?

ほとんど冗談のような話がまかり通っている。

僕はいろんな企業を見てきたが、企業活動の失敗の8割9割はオウンゴールだと思っている。

『トヨタ生産方式の逆襲』文春新書(750円+税/230ページ)

よかれと思って変なほうへ変なほうへ、みんなで真剣な顔して行っている。水の中で浮き輪だと思って石を抱えている。それは石だと言っても、何を言っているのですか、これは私の命綱の浮き輪です──こういう場面がいっぱいある。

それを力技で直しても後ろ向いた途端にまた石を抱えてしまう。一部の人でいいから気がついてもらって自分で石を放棄する、自分で水面をかくことを覚えてもらう。パラダイムシフトや考え方、しつこさを学習したら、100社が100社とはいわないが、100社のうち60社は面白いくらいに効果が出るはずです。

一生懸命やっているのに効果が出ないのは、アプローチが間違っているし、パラダイムが間違っているということに気がついてほしい。いちばん読んでほしいのは経営者。そしてトップに近い幹部。経営者に目覚めてもらわないといけないし、経営者をサポートする人たちを育てないといけない。少数派でもいいから革命軍を作ることが大事です。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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