「パワハラが原因でうつ病になった」「職場で受けた仕打ちのせいで人と接するのが怖くなった」「就労が困難になり困窮した」……ブラック企業という言葉が定着して久しい日本社会では、こういった体験を見聞きすることは決して珍しくないだろう。
本連載ではそうしたハラスメントそのものについてだけでなく、まだ十分に語られてきていない「ハラスメントを受けた人のその後の人生」について焦点を当てる。加害者から離れた後の当事者の言葉に耳を傾けることで、被害者ケアのあり方について考えられると思うからだ。
今回インタビューに応じてくださったのは、パティシエールとして働いている佳奈さん(仮名・28歳)。美味しいお菓子を提供する職場とは思えない流血事件を経て、トラウマを抱え職を離れた後輩に対して思うこととは。
警察も労基も解決できなかった
――前回伺ったお話では、直接的な暴力が常態化していたこと、お菓子を投げつけるなど職業倫理としてもありえないことがおこなわれたこと、また暴力の果てに命に関わる事件が起こったことを伺いました。しかし、それくらいわかりやすくひどい状況だと、近隣住民にも事情が知れ渡っていたのではと思ってしまいますが。
実際、近所の人たちの間ではよく知られていました。お店は商店街の中にあったので、怒鳴り声が外にも聞こえていたそうなんです。近所のお店の人たちが警察に通報したり、労基(労働基準監督署)に連絡したりと、積極的に動いてくださって。
ただ、お巡りさんは店の外まで見にくることしかできず、労基からは何か書類が届いていましたが、オーナーは破り捨てて、それでおしまいでした。立ち入り検査がされるでもなく、おしまい。
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