ちょうど田老15時29分発の久慈行きがあったので、ひと駅乗ってみる。ゆっくりしたスピードでトンネルを1つ抜けると、わずか2分で到着。運賃は170円だった。新田老は駅としては1面1線だけ。ホームは新しい建物の3階にある待合室に直結している。もちろん冷暖房完備で、真夏や真冬にはありがたい。駅としては無人だが、1階、2階には行政機関や商工団体、宮古信用金庫の支店が入居しており、エレベーターも完備。1970年代の建設で薄暗い階段しかない田老駅より、よほど立派に見える。
新田老駅から歩いて5分ほどで岩手県北バスの田老中町バス停に行き当たり、15時58分発の岩泉小本駅行きで再びバスの旅に戻る。ここから北側の谷間には、新しい商業施設や住宅が建設されている。震災遺構のたろう観光ホテルを右手に見つつ、高台に建設された新しい山王地区の住宅街に立ち寄ると、3人ほどいた乗客は全員、降りてしまった。
海岸まで町域が広がる岩泉町
この先の路線も丘陵地を縫う国道45号を進む。三陸道が開通してから大型車はめっきり減っており、バスは順調に走る。三陸鉄道は長大トンネルで摂待まで抜けており、影も形も見えない。岩手県北バスと三陸鉄道リアス線は、並走はしているが、特に競合関係にはない。バスは鉄道駅から離れた地域の需要をこまめに拾い、鉄道は高校生などの集約輸送や、観光客輸送に当たっている。
このあたりの海沿いにはわずかに集落もあるが、公共交通機関は通っていない。例外が総合レジャー施設「グリーンピア三陸みやこ」で、すべての路線バスが立ち寄る。もっともここも観光客目当てというより、途中通る集落の便を図っていると思われる。元より閑散期の平日で人影はない。
浄土ヶ浜といい、休暇村宮古といい、三陸地方にはかなりの観光スポットがあるのだが、路線バス利用者は顧みられていない。グリーンピアの敷地内には仮設店舗がまだ片付けられず残っており、「仮設住宅前」とのバス停案内も車内に流れたが、空き地が広がっているだけだ。
摂待は海からかなり離れた狭い谷にある集落で、バス停は三陸鉄道の駅のすぐ脇にあった。すぐまた曲線が多い山道に戻り、宮古市と岩泉町の境を越えて、茂師でようやく海の景色を拝めた。
トンネルを1つ抜けると、いよいよ小本だ。ここは小本川の河口に広がる町だが、行政上は下閉伊郡岩泉町になる。2014年に廃止されたJR岩泉線が思い浮かぶが、終着駅があった山間部の岩泉が町の中心地。町域が海まで広がっているのだ。急峻な海岸沿いを通る南北方向より、小本川をさかのぼるほうが往来しやすかった事情がうかがえる。
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