無人攻撃機ドローン、その秘密の開発史とは? 必要は発明の母、戦争は必要の母である
本書『無人暗殺機 ドローンの誕生』はUAVの歴史を扱った本格的なノンフィクション作品だ。1973年のヨム・キプール戦争(第四次中東戦争)で囮のロケット弾の開発を命じられたイスラエル航空産業のエイブ・カレムが、UAVの開発に着手する。しかしそのアイデアがイスラエルで受け入れられなかった。カレムは、米国に渡り、米国籍を取る。そこから、さまざまな人々との出会い、触発、別れによって、21世紀の軍事構造を塗り替える標的殺害能力のあるプレデターが生まれる過程が、人間の物語として見事に描かれている。
<必要は発明の母にして、戦争は必要の母である>(370ページ)という指摘は、確かにその通りであるが、必要を必然にするのは最高政治指導者の意志であることが本書から浮き彫りになる。2001年9月11日、米国で、アルカイダによる同時多発テロが発生した。その2カ月後の11月12日、アフガニスタンの首都カブール郊外で、プレデター3037が、当時、アルカイダのナンバー3であったモハメド・アテフを殺害した。この事実がブッシュ大統領に決定的な影響を与えた。
無人機開発に影響を及ぼしたブッシュの演説
<11月のある日、ブッシュ大統領は大統領執務室の机の引き出しから「最重要指名手配テロリスト」リストを取り出し、モハメド・アテフの写真の上に大きく×印を書いた。
アテフの死からおよそ1カ月が過ぎた12月11日、ブッシュはサウスカロライナ州チャールストンのシタデル軍事大学でスピーチを行い、士官候補生らに向かって、戦争の新時代が幕を開けようとしていると語った。これからは「ハイテク兵器における革新的ドクトリン」こそが、「隠れた場所に立てこもっている敵」を打ち負かすための鍵となる、と。
アテフの殺害には言及しなかったもののブッシュは、アフガニスタンは、国防の専門家が「軍事変革」と呼ぶ、マンパワーに頼るのではなくハイテクを駆使して戦争に勝利する方法を「試してみる場となった」と述べた。「プレデターがいい例だ」とブッシュは言った。
「この無人航空機は、敵軍の上空を旋回し、情報を収集し、情報を司令官らに即座に送信し、目標を極めて正確に攻撃する能力を持っている。この戦争以前は、多くの人がプレデターに懐疑的だった。 それは、プレデターが古いやり方に合っていなかったからだ。これで明らかになった。軍にはまだ無人航空機が足りないということが」
大統領の推薦の効果は絶大だった。このほんの数センテンスの言葉は、これまでプレデターだけでなく、ほかのどんな無人機に対しても無関心だった軍産複合体や伝統的軍需企業に強力な影響を及ぼした。これまでさまざまな無人機が開発されたし、中には実戦に使われたものもあったとはいえ、遠隔操作の航空機はやはりまだニッチ・テクノロジーだった。これで、すべてが変わることになった。古いやり方はまもなく消滅の道を辿ることとなった。航空機の新時代が始まったのである。>(368~369頁)
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