異常な日本はいつまで経っても賃上げできない 「恐怖の5段活用」で浮き彫りになる日米の違い

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さて、日本経済の先行きを見てみると、今回の見通しでは+1.7%成長が3年続くことになっている。来年末にようやくコロナ前の水準に届くかどうか、といった水準である。

7月 ▲4.5%(20)→1.7%(21)→1.7%(22)→1.7%(23)
4月 ▲4.5%(20)→1.7%(21)→2.4%(22)→2.2%(23)
1月 ▲4.5%(20)→1.6%(21)→3.3%(22)→1.8%(23)

とはいうものの、ウクライナ戦争と対ロ経済制裁の影響は、日本のような「持たざる国」を直撃する。特に前述のような「リスクシナリオ」が実現した場合は、目も当てられないことになってしまう。その点、エネルギーや食糧、さらには武器・弾薬をも輸出する側のアメリカは、対ロ経済制裁でむしろ潤うかもしれないのだから、結構なものである。

日米経済の違いはどこから来るのか?

それにしても、日米経済の対比がこれだけ際立つ局面も珍しい。アメリカ経済は8~9%のインフレに直面し、必死で金融引き締めを行っているが、雇用は堅調で賃上げも行われている。日本経済は久々に2%台の物価上昇に脅えつつも、日銀はまだまだ金融緩和を続けているが、賃上げはなかなか進まない。どっちがいいのかは微妙なところだが、何が原因でここまでの違いができたのだろう。

最大の理由は雇用情勢にあると見る。アメリカの失業率は、コロナ上陸後の2020年4月に前月の4.4%からいきなり14.7%に跳ね上がった。わずか1カ月で、雇用者数の約1割=2000万人もの雇用が失われた計算になる。働き手にとっては途方もない事態だが、アメリカ議会が打ち出したコロナ対策は文字通りの大盤振る舞いだった。解雇された労働者は、手厚い給付金や失業保険の上乗せ金を得て、時ならぬ消費ブームに沸いたくらいだ。

それから2年と少々。直近の失業率はなんと3.6%まで回復している。つまり失業した2000万人は、ほとんどが労働市場に戻ってきたことになる。彼らはいわば「怖いものなし」の状態だ。だから、ちょっとでも嫌なことがあると、すぐに仕事を辞めてしまう。”The Great Resignation”(大退職時代)と呼ばれるほどで、これでは企業は賃金を上げざるを得ない。これがインフレの大きな原因となっている。

逆にアメリカ企業は、コロナを絶好のチャンスと捉えたのであろう。従業員の1割をリストラしたら、当たり前だが財務体質は強化される。当然、賃上げの原資もある。さらに言えば、全体の約1割に及ぶ働き手は、かなりの確率で仕事を変えているはずだ。コロナを契機とした労働市場のリシャッフルは、アメリカ経済の生産性を高めている公算が高い。

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