老親が「実家を片付けられない」のにはワケがある 松本明子さんがプロに聞く「生前整理」のコツ
松本:ほかにも気をつけたい言葉はありますか。
上野:親をダメな存在として非難するような言葉は避けるべきです。たとえば、汚い、迷惑、邪魔などは、言われるとひどく傷つくはずです。実家は親のものであり、親は実家にあるものに強い愛着を持っています。それを子どもの価値観で、「こんなものいらないでしょ」と押しつければ、親は傷つき、悲しみ、反発するに決まっています。
松本:そして、へそを曲げて、ますます片づけなくなる(苦笑)。
上野:なぜ片づけられないんだろう、何か理由があるんだろうか、その視点を持つだけで親の気持ちに近づけるし、寄り添うことができるようになります。
そうすれば「ボケる前に片づけて」などとひどいことは言えなくなるはずです。
親の意向はエンディングノートを活用して把握する
松本:親の価値観や片づけられない理由にも思いを寄せることで、初めて親の意向を踏まえた生前整理に踏み出せるというお話ですが、具体的にはどう話を進めればいいのでしょうか。
上野:終活の考え方を取り入れるといいと思います。終活は、自らの老いや死に備えることですが、それだけではなく、人生の終焉を考え、自分の死生観と向き合うことで、いまをよりよく生きられるようにすることを重視しています。
そのためによく活用されているのがエンディングノート(終活ノート)です。
生前整理を上手に進めるにはこのエンディングノートを親子で一緒に書くといいですよと提案させていただいています。そうすれば親の意向がわかりますから。
松本:親の意向と言いますと?
上野:エンディングノートは何を書いても自由ですが、たとえば介護などは今後の希望に関する必須項目ですから、親は介護をどこで受けたいのか、自宅なのか、施設なのか、考えることになります。するとみなさん、たいてい「自宅」と希望されるんですね。
でも、希望はあくまで希望ですからできるかどうかは別です。そこで、「在宅介護に何が必要なのか、ちょっと調べてみるね」といったん引き取って、次に会ったとき、たとえばこんなふうに言えばいいのです。
「在宅介護には介護ベッドを入れる必要があるから、そのためのスペースを作らないといけないみたい。いまはいろいろな物が部屋に置いてあるでしょう。ちょっと片づけないといけないかもね」と。
すると親は「ああ、そうなのか」となりますから、「じゃあ、これはどうする? あれはどうする?」と親の意向を聞いて物の整理を進めればいいわけです。